シンポジウム「文化芸術は誰のもの?」参加者レポート①
種村 剛(北海道大学 客員准教授)
私は北海道大学 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP/コーステップ)で「科学技術演劇」の企画に携わってきました。これまで、札幌の劇団『弦巻楽団』を主宰する弦巻啓太氏と共に『私たちが機械だった頃』(2019年/シアターZOO)、『インヴィジブル・タッチ』(2020年/サンピアザ劇場)、『オンリー・ユー』(2021年/札幌文化芸術交流センター SCARTS)の三作品を制作・上演しました。今回のキックオフ・シンポジウム「芸術文化は誰のもの?」は、科学と演劇を合わせ、地域の劇場で上演する活動の意義を改めて考える機会になりました。
佐野真由子氏の講演は、文化を人が社会の中で人らしく生きるための基盤的な活動として捉え、歴史と領域の二軸の視点から「大きな文化政策」を構想することが示されました。文化政策においてしばしば挙がる「みんなのための文化芸術」のスローガンが、知らぬ間に「『みんなのための文化芸術』を掲げる行政や事業者のための文化政策」になってはいまいかとの問題提起は重要だと思います。
戸館正史氏の講演では、市民の主体的な活動を誘発するための中間支援の役割や、文化政策がすくい上げることが困難な層へのアウトリーチの取り組みが、愛媛県松山市での取り組みを事例として紹介されました。「市民全員が文化芸術に親しむ」ことが行政から要請されることへの違和感に対する「他者を自分のこととして考える契機としての文化芸術」の提案は、佐野氏の指摘する社会形成の基盤なる文化芸術と連続性を持っていると感じました。
シンポジウムが、俯瞰的な視点から文化芸術の見方を捉え直す機会となったことは、今後の北海道シアターカウンシルの目的を定める上で意義があるものでした。クロストークでの参加者同士のディスカッションを行った上で質疑応答につなげる司会者の工夫は、市民参加を重視するプロジェクトの方向性を示すものだと受け取りました。若い世代のシンポジウムへの参加があったことは、今後の活動への期待が深まるものでした。大学は地域の文化施策のハブになりうると考えています。プロジェクトの発展になんらか貢献できれば幸いです。