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札幌演劇シーズンとは?

ゲキカン!
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ライター  岩﨑 真紀さん

愛を捕まえるには、ときに腕力が必要だ。いや本当に。
『ダニーと紺碧の海』Bチームの芝居で、演出家・橋口幸絵はそのことについて描いているのだ。

『ダニー〜』には、二種類の腕力が登場する。一つは、物理的な意味での腕力。何しろこの芝居、ナッツが飛ぶ、酒が飛ぶ、グラスが飛ぶ、男も女も綿棒もぶっ飛ぶ。バイオレンスだ。女は男を、男は女を、力で捕まえるのだ。

もう一種類は、愛を限りなく求めていく力、魂の腕力、とでもいうべきもの。人生の中で、見過ごせば通り過ぎてしまうだろう人をとらえ、引き寄せ、押さえ込み、相手を魂ごと自分の人生に絡めとろうとする力だ。

行き詰まった人生の中で狂おしいほどに慰めを求める女・ロバータと、人とうまく関われず過剰に神経を高ぶらせている男・ダニー。演出家は二人を、実は魂の腕力が大変に強い人物、として設定した。それでいて、防御力も並外れて強い。だから二人の愛の戦いは、非常に見応えがある。

そう、これは愛の戦いの物語だ。ここでは、よくある表現のように「孤独な二つの魂が惹かれあう」のではない。孤独が極まって怯えきった魂が逃げるためにあらん限りの攻撃を行い、もう一方は、孤独の飢餓感ゆえにそれに挑んで組み伏せようとするのだ。

ゴングはいつの間にか鳴っていたようだ。しばしの探り合いを経て、スピード感のある激しい戦いが展開する。セリフというパンチの応酬があまりに早く多いので、どの部分にどのようなダメージを与えたのか、いいパンチだったはずのいくつかを私は見落としてしまった。そこはスロー再生で見返したいところだが、めくるめく疾走感は実に見事だ。

観客は心の中で、認められない孤独に激しくもだえる男を、傷つくことを怖れて逃亡のための羽ばたきをやめない女を、もう一方に「なんとか掴まえてくれ!」と願うことになる。そうだ諦めるな、本当は相手もそれをほしがっているんだ、そうだもう一度言うんだ、もう一度、いやもっと、もっと強く!

つかの間の休戦のシーンでは、幼子のような二人の純粋さが描かれる。それは夢のように静かで美しい。そして、ラストシーンも。名手の計らいによる照明と音楽が、大変効果的だ。

嵐のような戦いを終えて、薄暗い場末のバーから始まった物語は、希望の大海を望む明るい浜辺にたどり着く。観客は心の底からほっとして、壊れそうな小舟で海に乗り出そうとする二人に、幸いあれ、と強く願わずにはいられないだろう。

PROFILE
岩﨑 真紀
フリーランスのライター・編集者。札幌の広告代理店・雑誌出版社での勤務を経て、2005年に独立。各種雑誌・広報誌等の制作に携わる。季刊誌「ホッカイドウマガジン KAI」で演劇情報の紹介を担当(不定期)。

映画監督・CMディレクター  早川 渉さん

「ほとばしる魂」



 「ダニーと紺碧の海」の原作者は、ジョン・パトリック・シャンリィ。
1987年に作られたシェール、ニコラス・ケイジ主演のロマンティックコメディ「月の輝く夜に」の原作・脚色者として(脚色賞でアカデミー賞も受賞)映画ファンの間では知られている。都会に住む孤独な人々を描くことに定評があるシャンリィが1983年、「月の輝く夜」に続いて発表した戯曲が「ダニーと紺碧の海」だ。登場人物は2人のみ。周囲から野獣と呼ばれ、繊細すぎるハートを持ち周囲と自分を傷つけることしかできないダニーと、父親と起こした過去の罪から逃れることができずに心を閉ざすロバータ。そんな2人が夜のバーで出会い、ともに一夜を過ごす。ただこれだけのお話。
 演劇シーズンの序章を飾ったintro「言祝ぎ」が言葉をかみしめる芝居だとすれば、「ダニーと紺碧の海」は『役者のほとばしる魂を感じる芝居』か。白い砂の上に無造作に置かれた机やイス(1幕)。簡素なベッド(2幕)。まるで舞台は、深海の底のようだ。ここでは生きているモノは何もない。もちろんダニーとロバータも生きてはいない。いや、かろうじて生きてはいる。ただ傷つき、閉ざし、それでも求めて・・・
 芝居の後半に効果的な音楽が聞こえてはくるものの、この芝居のほとんどは役者たちの発する激しく、時にはナイーブなセリフの応酬、芝居のぶつかり合いで作られている。2人の役者のすさまじいバトルを、役者が発するオーラ、体温、体臭といったものとともに感じる芝居。これは自分が携わっている映画などの映像作品には到底太刀打ちのできない、ライブならではの芝居の特徴であり魅力だ。芝居を観たなぁ!という実感が得られる80分だ。
 今回の公演はダブルキャストで行われている。Aチームが山本菜穂と大谷健太郎、Bチームが榮田佳子と彦素由幸。この芝居は役者の存在感や芝居の質に相当影響を受けるので、AチームとBチームでは違う芝居か!?といっても良いほど印象が変わっている。どう違うかは実際に観て感じていただきたい部分なのだが、自分は2つのチームの芝居を両方観ることによって、この戯曲が持つ、そして演劇自体が持つ表現力の可能性を感じることができとても面白かった。
もし、どちらかの公演を観て面白いと感じたならば、もう1回別チームの公演を観ることをおすすめする。絶対に2倍以上の満足感が得られると思う。
 なので札幌座さん、もしくは演劇シーズン実行委員会さん。特別リピーター割引を作ってくれないかなぁ・・・。
「ダニーと紺碧の海」のA、Bチームを両方観るお客様は2本目を1000円で観られるとか(*今のリピーター割引だと2回目は2500円!)。そうすれば両方観られるお客様が増えると思うんですけど、どう?

PROFILE
早川渉/映画監督・CMディレクター 札幌在住
昨年、中高生と琴似の街のコラボで実現した長編劇場映画「茜色クラリネット」では指導監督を務める。この映画には、札幌座演出の斎藤歩をはじめ何人もの札幌演劇人が参加している。
3月22日(土)〜 シアターキノ(狸小路6丁目)にてロードショー公開。
3月2日(日)には夕張国際ファンタスティック映画祭での上映も。
こちらもよろしく!
予告編はこちらから

NHKディレクター  東山 充裕さん

『ダニーと紺碧の海』Bキャストの正直な感想

……感動した。
私の感想を舞台の進行に沿って述べると、
「なんだお前ら。ヤベェよ。オイ。…参った。泣いちまったよ」って感じです。
とにかく、皆さん観るべし!

最初に榮田佳子(ロバータ)が舞台に現れた時、彼女が纏う人生に疲れ切った空気にゾッとした。なんてどす黒い気配を醸し出しているのだろう。こんな女性と目を合わせてはならない。間違いなく後悔することになる。
それなのに、目を離すことが出来ない。見たい、もっと見ていたい、と榮田佳子に吸い寄せられてしまうのだ。

榮田佳子は天才的な女優である。
昨年の「演劇シーズン」で、ほとんどが榮田佳子の一人芝居の『イザナギとイザナミ』という舞台を観た。そこでの彼女の演技もとても素晴らしかった。
がしかし、私は、あまりに鬼気迫るヒステリックな彼女(イザナミ)が恐ろしくて、こんな女性と関わりを持ってはならない、普段の生活では決してお会いしないようにしようと思ったものだ。
と言うのも、私のこれまでの経験上、いくら役者が演技をしているといっても、普段の人間性がどうしても演技に滲んでしまうものだと思っているからだ。
なのにしばらくして、ある人の紹介で、やむを得ず榮田さんにお会いすることになってしまった。
やだな、気が乗らないな、恐い人なんだろうなと思っていたところ……あれ? 本当に榮田さん? 舞台と違って全然穏やかだし、普通に綺麗な人じゃないか。……なんだ誤解だったのか、と思い直したのだったが……ゲゲッ!(じぇじぇ!) 
今回の榮田さんも、やっぱり関わりを持ちたくないタイプの女じゃないか!! 
舞台と、普段と、どっちが演技ですか!? 本当の榮田佳子はどっちですか!?

話を戻すと、最初はだらしない獣のような彦素由幸(ダニー)と榮田佳子(ロバータ)に対して嫌悪感を持つのだが、いつ間にか二人に妙な愛おしさを覚え始め、ラストシーンでは彦素由幸のセリフと二人の選択に涙してしまう、と、そういう舞台です。

驚いたことに、Aキャストの舞台は、今回のBキャストのものとは全く違うらしい。
早くAキャストの舞台も見たい! 
……すっかり橋口幸絵演出に嵌められている気がします。

PROFILE
東山 充裕
 NHKディレクター。北海道出身。高校・大学時代と自主映画の監督を経てNHKに入局。主な演出作品に連続テレビ小説『ふたりっ子』、大河ドラマ『風林火山』、ドラマスペシャル『心の糸』(国際賞受賞多数)、FMシアター『福岡天神モノ語り』(ギャラクシー賞優秀賞受賞)など。
 福岡局在任中に、地域の魅力を描く“地域ドラマ”を企画・演出。福岡発地域ドラマ『玄海〜私の海へ〜』は放送文化基金賞本賞を受賞。
 昨年6月より札幌局勤務。札幌発ショートドラマ『三人のクボタサユ』を演出。

編集者・ライター  ドゥヴィーニュ仁央さん

恋愛のことは、もういろいろと知ってしまったあなたへ。

あなたは毎日忙しい。仕事はもちろん、友達との食事や習い事。あなたのスケジュールを埋める数々の予定の中で、もしかしたら「観劇」は範囲外のことかもしれない。でも一度だけ、ちょっと出来心を起こして足を運んでほしいのだ。

あなたは地下鉄中島公園駅で降りる。中島公園には何度も訪れているけれど、そのすぐ隣に劇場があることは初めて知っただろうか。雰囲気の良いカフェの前を通り過ぎ、「札幌座公演『ダニーと紺碧の海』」と書かれた看板に気付く。そこがシアターZOOだ。
地下へ続く階段を下りながら、あなたは昔よく通ったライブハウスやクラブを思い出す。ワクワクするようなことが起る場所は、大抵階段を下りたところにあるものだ。
中へ入ると、白い砂が敷き詰められた舞台上に、一人掛けのテーブルと椅子。
客席に座り流れている音楽に耳を傾けながら、熱に浮かされていたような若い頃のことを懐かしく思い出していたあなたは、ふと顔を上げて驚くだろう。
目の前には、いつかのあなたのような女が一人、グラスを傾けているからだ。
女は踊り出す。がら空きのフロアで、音に身を任せながらけだるく過ごしていた時間が、あなたの中によみがえる。そこに現れる、金髪の男。
グラスが落ちる音で、あなたは我に返る。目の前の二人は、激しく言い争っている。
荒れ狂う感情をぶつけ合う男と女。ぶつかり合って、ぶんぶん振り回して、交じり合う。
あなたは思い出す。
この夜の主人公は自分たちで、「今、私たちはお互いに求め合っている」と感じられる、絶対的な、あの感覚。そして、思いがけず心が触れ合ったときの、無防備な気持ちの高まりを。
でも、あなたは知っている。朝が来ると、それらがたちまち消えてしまうことを。
女の態度を見て、「やっぱりね」とあなたは思う。そして、動揺する男に少しばかり胸が痛みながらも、「あれはお互い演じていただけじゃない。その時間は終わったのよ」と思うだろう。
それなのに、男はあの時間こそが本当だったと言う。「俺たちだって、強く望めばそれが手に入るんだよ!」。
すり切れそうな二人のやり取りに、あなたは息をするのを忘れる。
うまくいくはずがない。
でも、本当はそんなこと、誰にもわからないのではないか?

帰り道、きっとあなたは、光に照らされきつく抱きしめ合う二人の姿を、何度も思い出す。
そして「もう一度だけ、バカみたいな恋愛をしてみてもいいかもしれない」と考えている自分に気付いて、苦笑いするのだ。自分の中にまだ残っていた無鉄砲さに、ほんの少しのうれしさを感じながら。

※1月25日(土)Bキャストを観劇。

PROFILE
ドゥヴィーニュ仁央
ジユウダイ!』、『WG』という2つのWEBサイトで、札幌のアート&カルチャー情報を発信。「madebyhumans」(by IMPROVIDE)という取り組みでは、アート・コレクションのコーディネートも担当している。

お客様の感想

こういう芝居は自分はダメなのだろうと思ったのですが、今日のは没頭できました。
セリフを怒鳴るというのと、はっきり話すというのは違うのだと思った。(50代男性)



温かく背中を押された気持ちです(女性)



あっという間の1時間20分でした。
目をつぶってしまうようなシーン、大声に肩がビクっとなってしまうようなシーンが今はとても心地よく?思えます。



自分的に感情移入しやすいお話+迫力ある演技で圧倒されまくりの1時間10分でした。そして今回も思うのは1時間10分という長い間、たった2人で大勢の観客を感動させるという役者さんの凄さ。
終演後、拍手はしばらく止みませんでした。(40代男性)



その迫力に度肝を抜かれて、抜かれたところに切ない感覚を突っ込まれました。
映画じゃこの感覚は得られないんだなあ。(30代男性)



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