「演劇×学校」ワークショップ 参加者レポート②

第2回「体験!『なってみる学び』~演劇的手法で変わる授業と学校」編

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 道内の演劇教育の現在地とこれからの可能性を探る機会として、2023年10月~11月に実施した連続企画「演劇×学校」。この中で3回シリーズで行われたワークショップには、演劇関係者はもちろん、小中学校、高校、大学の教員や教育行政関係者らが参加しました。
 講師は、いしいみちこさん(芸術文化観光専門職大学講師)、渡辺貴裕さん(東京学芸大学教職大学院准教授)、絹川友梨さん(桜美林大学芸術文化学群演劇ダンス助教)。国内の演劇教育を牽引する第一人者のワークショップは、参加者には何を残したのでしょう。

 ワークショップ第2回「体験!『なってみる学び』~演劇的手法で変わる授業と学校」
 講師/渡辺貴裕(東京学芸大学教職大学院准教授)の参加者の声を紹介します。

千葉和代(北海道教育大学教職大学院M1)

 渡辺貴裕氏のワークショップに参加して、大いに動き、笑い、そして学びました。本当に何度大笑いしたか分かりません。気が付けば、肯きながら渡辺さんのお話に聞き入っている自分がいました。
 人間ものさしに始まり、多くのワークを体験しました。①説明→②「やってみましょう」→③「今、どんな感じでしたか」…基本的にこの3つを繰り返しながら進んだワークはバラエティに富んでいて、あっという間の5時間。「今、私こんなこと考えてた!」と自分の気持ちを発見したり、「この人はそういうことに着目したんだ!」と参加者の視点に驚いたり、「こんな場面で活用できそう!」と想像を膨らませたりするうちに、世界がどんどん開けていく気がしました。例えて言うなら、平屋で暮らしていた人が、地上10階の家に引っ越したような…そんなイメージでしょうか。
 特に印象に残ったのが、『葛藤のトンネル』です。2mほど間をあけて2列に並んだ人々の間を人物Aが通ります。その際、片方の列はAの心に住む“天使のささやき”を、もう片方は“悪魔のささやき”をAに向かってします。今回は、Aを「“裸の王様(アンデルセン著)”の大臣」としました。片方の列は“「布は見えていない」と素直に言おう”と思う大臣の気持ち、もう片方は、“「見えている」とウソをつこう”と思う大臣の気持ちをイメージしてつぶやくのです。私も大臣としてその間を歩きました。右から天使・左から悪魔のささやきが聞こえます。「正直が一番だよ」「クビになっちゃうよ」等々…。それぞれのささやきに説得力を感じ、気持ちがかき乱されました。まさに葛藤です。ざわついた心に向き合う中で、「そうか。大臣は、こういう気持ちだったんだ。」とストンと理解しました。同時に、これが演劇の良さか!と腹落ちしました。
 演劇の手法を使って教育を変える成果は、大人の学びにも十分活用できます。今回のワークで実感しました。私は今、教職大学院で「教師の学び」について研究していますが、実際の体験を通じて「やってみる(なってみる)」ことの説得力と可能性を実感しました。こんなにも楽しくて実りの多い学び方を生かさない手はない!と心から思います。しかも、「教師の学び」に求められているのは「教える・教えられる」の関係ではなく、対話を通して「学び合う」チームの姿勢です。…演劇、最強です。
 約30名の参加者とは、「初めまして」から始まりました。一緒に活動するうちに、仲間に変わりました。演劇には、人と人をゆるやかに、しかし確実に繋ぐ力があります。その点で、現代社会に生きる全ての人に学び甲斐がある内容です。
 このようなワークショップを毎年やってほしい!そして、学校関係者や演劇関係者のみならず、多くのみなさんに参加していただきたい!北海道・札幌から「演劇を通した学びのエネルギー」が広がっていくことを想像しながら、私のワクワクはまだ続きそうな気がしています。


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越智香奈江(あたらしい民話事務局)

 私は、幼少期から大学まで20年間、英語劇の習い事に通っていた。習い事を通して得た経験はとても糧になるもので、今の自分の考え方や人生に大きく影響を与えている。しかし、この活動を通した経験についてうまく言語化はできておらず、それでもこういった活動をどこかで再現できないかと考えていた。
 そんな時、演劇スタッフで関わった公演で今回のワークショップの案内を見かけた元々、自分の習い事も演劇的要素の他、コミュニケーション教育に関係する部分があると感じていたので、この企画の内容を見た時に、まさに自分が気になっていた分野の話だと思った。また職場でのコミュニケーションの取り方と教育の方法という観点でも活かせる事があるのではないかと考え、参加を申し込んだ。そして今回は全3回のうち2回目の渡辺先生のワークショップについての感想になる。
 ワークショップの最初は様々なアイスブレイクを実施したが、その中でもシーンの一部を切り取るワークが印象的だった(演劇的手法の中では「静止画」にあたる)。その時は、1回目のワークショップで一番印象的だったシーンを、3人程のチームで一時停止した状態で表現してみるといったものだった。私は1回目のワークショップには参加できなかったので、同じチームになった2人の話を聞いて想像しながら再現をすることになった。すると、言葉だけで聞くよりも、実際に再現するほうがその時のシーンを自分も追体験したような気持ちになり、理解度が高まった気がした。
 また、その後は「裸の王様」という童話の流れに沿って、実際に「演劇的手法」に則り様々なワークが実施された。中でも特に印象に残っていたのは「葛藤のトンネル」と言われるワークだった。2列に並んだ参加者の間を、目を閉じてゆっくりと歩き、通る時に両隣から天使と悪魔のように対立するそれぞれの意見について囁かれるものだった。その時は嘘をつくか、つかないか、その理由について囁かれるシーンだったが、自分では思いもよらないような言葉をかけられ、自分の思考がその言葉に影響されて揺れ動いていくのは不思議な体験だった。
 他にも、想像力・表現力が鍛えられるような様々な手法のワークを行ったが、ワークショップ全体の進め方で気づきになった点もあった。ワークを実施するごとに、近くの人と2人以上でその時思ったことや感じたことを、都度共有する時間がほぼ必ず設けられたことだった。突然全体に共有するよりも、アウトプットのハードルが下がり考えを共有しやすかった他、毎回小さなアウトプットを行うことで、自分の感情や思考を整理でき、また自分とは違う考えを知ることで、思考に広がりが生まれた。
 また、今回のワークショップには、かつて自分が幼少期の習い事で経験した事に当てはまる部分が大いにあった。それは「演劇的手法」に置き換えると主に「静止画」「ロールプレイ」「マイム」「フィジカル・シアター」などに分類されるものであり、自分が漠然と感じていた幼少期の体験は、教育手法の中ではこれらに分類されるものだったということを実感した。長年抱えていた自分の中のもやもやが解消され、点と点が一つの線で繋がった瞬間だった。


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