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Meets HOKKAIDO~まだ見ぬ北海道の物語~
レポート③室蘭篇

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 札幌の若手演劇人が地域のコミュニティFM局と連携しながら、地域で取材を重ね、地域の「物語」を収集して、ラジオドラマを創作しました。
 出かけた先は帯広、室蘭、恵庭の3市。新緑の季節にはじまった取材は約半年間続き、樹々の葉が赤く色づくころに1本のラジオドラマとして結実しました。この間、札幌しか知らない若者たちは、地域の中で何を感じ、何を掘り起こすことができたのでしょう。参加した若手演劇人と受け入れ先のコミュニティFM担当者に本事業を振り返っていただきました。室蘭篇です。

室蘭のおと

米沢春花(劇団fireworks)

 室蘭というまちは、朝日と夕日がみえるまちです。
 工場夜景が綺麗で、自然も美しいのになんだかノスタルジーを感じるたまらんまちです。

 今回の企画でFMびゅーの沼田さんを中心とした室蘭というまちが好きな人たちと出会うことができました。
 沼田さんは、取材でたくさん場所に連れて行ってくれましたが、室蘭のどこにいってもその場所や道や建物ことなどを詳しく教えてくれました。
 何の資料も見ていないのに、スラスラとその場所の由来や出来事を話していて話を聞きながら、内心は辞書みたいだと思っていました。
 また、沼田さんの話はその場所や道や建物のことを聞いているのに、そこに住んでいる室蘭の人の顔が想像できました。
 自分も室蘭のまちを通して、室蘭に住む人表現したいと思いました。
 また、この企画が決まる前に室蘭に実家のある友人に実家の作業場の物、いらない?と誘われ室蘭に遊びに来たことがありました。その友人は少し前に父親を亡くしていました。
 そのために、父が使っていた作業場の物をいらないかと声をかけてくれたのです。
 作業場の物を見たり、その友人お母さんや、友人の話を聞いてその友人の「家族」のことをなんだか忘れられずにいました。
 その大きな2つの出来事があって出来上がった作品が「クジラの腹の中」です。
 父の残した音を頼りに、父の痕跡を探す物語です。
 このラジオドラマを通して、室蘭に住む人の暖かさやまちの魅力が伝わればいいなと思っています。本当にたくさんの方のお力をお借りしてできたラジオドラマです。
 取材場所の方々はもちろん、今回オーディションで市民の方々に出演していただき限られてる時間の中で、完成に向けて尽力してくださいました。

 出来上がったラジオを聞いて、友人の母は「お父さんじゃなかったけど、お父さんだった。涙が出た」と連絡が来たそうです。その感想はとても嬉しく、私は演劇を作っている理由を再認識しました。
 また、普段中々見学することの出来ない刀鍛冶や工場の中に入ることができて、演劇をやっていなければ経験出来なかったことだとおもいました。
 ありがとうございました


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鉄のまち室蘭を象徴する日本製鉄北日本製鉄所を取材(写真左から2人目が米沢さん)


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ラジオドラマにも出てくる鳴き砂で知られるイタンキ浜



室蘭をおとで伝える

沼田勇也(室蘭まちづくり放送株式会社 FMびゅー 代表取締役社長)

 脚本づくりのための取材や出演者のオーディションから収録編集と、ラジオドラマの制作に関わる全てのことが初めてで、大変貴重な機会をいただきありがとうございました。
 作品にとって最重要ポイントである脚本が、当初のテーマから逸れることなく、しっかりと現地取材した内容を反映して作り上げていただいたことがとてもありがたかったです。
 成果としては、まず制作面において、地域文化を「おと」で残すという目的はしっかり達成できたと思います。さらに、この作品は地域の方たちに向けた出演者オーディションを行い作品作りから地域の方に関わる機会を用意出来たことも良かったと思います。また、この作品をラジオ放送することで、日々生活する中であたりまえの日常を文化として再確認できる大変すばらしい機会になりました。
 地域内での放送を2回行うことでより多くの方の耳に届けることができて、聴いた方から「良かったよ」というメッセージもいただいています。
 さらに全道コミュニティFMにも発信することで、「鉄のまち」とひとくくりにイメージされがちな室蘭の様々な顔に、気づいていただける機会にもつながったものと思います。
 課題としては、皆さん多忙の中で完成期限も近い状況での制作となったなか、ドラマの脚本演出ともに素晴らしい作品を作り上げていただきましたが、脚本第一稿の時点で対面でしっかり打合せやすり合わせをする機会を用意して更なる内容充実を図れたらよかったと思いました。
 また、取材時に収録した音源など本物の音にもっとこだわってみたかったです。オーディションから収録までの時間も短かったため、出演者が原稿を読み込んだり、それぞれがシーンをイメージして足を運んだりするような時間が用意出来なかったことも心残りではあります。
 一つ一つのことに、もう少し時間をかけながら積み重ねられれば、あと一歩で何らかの賞をとれる作品になるのではとさえ思える、とても良い作品ができました。
 本企画に多くの皆様のご協力をいただき素晴らしい作品を残すことができました。心より感謝申し上げます。


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室蘭「クジラの腹の中」チームの皆さん


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室蘭のまちを一望。工場から聞こえてくるのは「エリーゼのために」