Meets HOKKAIDO~まだ見ぬ北海道の物語~
レポート②恵庭編

写真

 札幌の若手演劇人が地域のコミュニティFM局と連携しながら、地域で取材を重ね、地域の「物語」を収集して、ラジオドラマを創作しました。
 出かけた先は帯広、室蘭、恵庭の3市。新緑の季節にはじまった取材は約半年間続き、樹々の葉が赤く色づくころに1本のラジオドラマとして結実しました。この間、札幌しか知らない若者たちは、地域の中で何を感じ、何を掘り起こすことができたのでしょう。参加した若手演劇人と受け入れ先のコミュニティFM担当者に本事業を振り返っていただきました。恵庭編です。

花開いてゆく街

常本亜美(札幌座)

 札幌から新千歳空港へ向かう途中で通るまち、そんなイメージしかありませんでした。
 恵庭と聞いて思いつくことと言えばそのくらい。ですが取材を重ねるうちに、その印象も大きく変わることになりました。

 取材の中で印象に残っていることがいくつかあります。
 まず、文教大学生の学生さんに恵庭のイメージを尋ねたところ、「帰ってきたくなる街ですね」と語ってくれたことから、「恵庭を帰ってきたくなる街にしたい」という思いで長年頑張ってきた方たちの努力が、間違いなく実っているんだと実感したことです。発信側の想いと、受取手の感じ方が合致するのはとても難しいことですので、恵庭のまちづくりは正しい方向性で進んできたんだと感動しました。

 そして、花のまちづくり活動に参加されている市民の方に、「もっと恵庭の魅力を違う街の人にも知って欲しいですね」と投げかけた時に、「そんな風には思っていません。自分たちの街の魅力は自分たちが知っていれば」とおっしゃっていただいたことも胸に残っています。それが「帰ってきたくなる街」の正しい姿であるような気がしました。

 この作品は、主人公「八重子」というとある一人の女性に様々な事象を重ねて成り立っています。
 まず、恵庭という街の成り立ち。何もなかったところから、少しずつ自分たちの手でやりたいことを見つけ、今となっては多くの人で賑わうようになったその様を、八重子が少しずつ自分のやりたいことを見つけ、それに人がどんどん集まってきて人生が豊かになっていく様子と重ねました。恵庭は「花の街」とも呼ばれていますから、人生の原体験を「種子」とし、自分のやりたいことはこれかもしれない、と見つけた瞬間を「萌芽」、そしてそれが実った瞬間を「開花」と章立てています。
 また、「過ぎていくもの」をもう一つのテーマとし、時代、季節、人、様々なものがめまぐるしくすぎていく中で、帰れる場所があること、帰ってきてくれる人がいることの温かさを描けたらと思いこの作品を書きました。

 私にとって、ラジオドラマを書くことも、どこかの街を取材して作品にすることも初めての経験でしたので、至らない部分はたくさんあったと思いますが、本当に素晴らしい時間を過ごさせていただけたと感謝しています。本当にありがとうございました。


写真

恵庭「過ぎゆくものたち」チームの皆さん(左から2人目が常本さん)


写真

取材中何度もお世話になった恵庭市民のソウルフード、食堂ゝ月の「ポークチョップ」


ラジオドラマ制作で感じた地域コミュニティの力

三浦 真吾(株式会社あいコミ 地域FM放送e-niwa 取締役・編成プロデューサー)

 この度、当局としては、初の試みとなるラジオドラマ制作にあたり、多くの関係者の協力と理解のもとに、無事に本プロジェクトを遂行することができました。北海道演劇財団様をはじめ、この度の脚本・演出を手掛けられた常本亜美さんのご尽力とご支援により、地元恵庭市の魅力を盛り込んだ素晴らしいシナリオが生まれ、本物指向の効果音収録を地元飲食店で行うなど、「花のまち恵庭」をローカルアイデンティティとする地元恵庭市と深く結びついた内容になりました。10月下旬の顔合わせと本読み、全3回の本編収録作業には、計12 役 11 名のキャストをラジオ局の市民パーソナリティとして活躍される方々が演じていただきました。制作過程自体が、地域を見つめる重要な機会にもなり、恵庭の魅力や人々の魅力が作品に散りばめられるという経験は、私たちにとって大きな喜びとなりました。
 成果としては、 ラジオドラマのオンエア直後や、後日 Podcast を拝聴していただいた多くのリスナーからの反響を得ることができました。また、市民ボランティアパーソナリティからは、「住んでいるまちのシナリオに親しみを感じ、そのドラマ制作に関われたことがとても貴重な体験であった」といった感想や、ラジオドラマ制作に積極的に参加してくれた地元の人々からも「次回作があれば、また参画してみたい」といったポジティブな反応も得ることができました。この結果、恵庭市のまちづくりに関する新たな視点を提供し、地元の魅力を広く発信することができたと考察します。
 課題としては、 初のラジオドラマ制作だったため、演出や制作スケジュールの調整、収録場所が完全防音ではなかったことから、編集作業に多くの時間を費やしてしまうなど、様々な課題に直面しました。これらの課題は、今後の放送での改善点として捉えています。また、より多くの地元の人々に参加していただくための方法を考える必要があります。
 本プロジェクトにご協力いただいたすべての皆様に感謝申し上げます。


写真

ラジオドラマ収録の様子


写真