「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」レポート③

演劇篇「老いと演劇〜超高齢社会におけるアートの可能性〜」

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 11月7日(月)、「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」の3講座目、「老いと演劇〜超高齢社会におけるアートの可能性〜」が行われました。講師、は超高齢社会の課題を演劇というユニークな切り口でアプローチしてきたOiBokkeShi主宰の菅原直樹さん。当日の様子を受講生の種村剛さん(北海道大学客員准教授)のレポートで紹介します。以下、原稿です

「老と演劇」介護と演劇の相同性を体験して

種村剛(北海道大学客員准教授)

 クリエイティブ講座の第3回目は、2014年から岡山県で介護と演劇をつなげる活動をおこなっている、OiBokkeShi主宰の菅原直樹さんです。午前の講義では、講師から介護と演劇の親和性についてお話を聞きました。菅原さんはご自身の介護福祉士としての経験から「人は年をとると個性が煮詰まる」「老人ホームは人生が詰まった場」「お年寄りほどいい俳優はいない」といいます。「人がそこに存在している」ということの強さがお年寄りには内在しているのでしょう。「おかじい」や講義やワークショップで視聴したドキュメンタリーに登場していた老夫婦からも、菅原さんのいいたいことが伝わってきました。介護の現場に入っていると、日々「生きるとは何か」「死とは何か」「コミュニケーションとはどのようなことなのか」などの根源的な問いに向き合う機会が増えます。菅原さんは、現代社会は老いや呆けや死が忌避され隠されている一方で、人はこれらから大事なことを学べるといいます。OiBokkeShiの活動は、演劇を通じて介護の現場で感じ・考えたことを地域に広く発信し、みんなで考える機会をつくることだと述べました。

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 講義では、菅原さんの具体的な取り組みも紹介されました。「おかじい」との運命的な出会い、そして、野外劇として組み立てられた徘徊演劇「よみちにひはくれない」、そしてイギリスでの上演活動、「老いのプレイパーク」「ムービングデイ」での市民参加型の即興劇などは、札幌で実際に行ってみてもよいのではないかと感じました。
 午後はワークショップを行いました。内容は介護入門・演劇入門として実際に、「あそびリテーション」として老人ホームの職員などに行っているものです。菅原さんは、介護における演劇の効能として、私たちが普段の生活において無意識に行っているコミュニケーションについて意識的になることを指摘しました。シアターゲームなどのアクティビティのメリットとして「あそびは間違ったりできなかったりすることが楽しい」ことを挙げました。「間違うことが楽しい」ことは前回の音楽ワークショップでもありました。一方で、今回は「老いと演劇」が主題であり、老いとは「加齢によってできないことが増えていくこと」でした。そして現代社会は「できない」ことが認められない社会でもあります。そのように考えると「できないことを楽しむ」あそびの意義は、超高齢化社会の中ではより重要になっていくのではないかと思いました。またシアターゲームなどによる「身体」を媒介したコミュニケーションの豊かさについてワークショップと菅原さんのリフレクションを通じて改めて再確認できました。

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 「イエスアンドゲーム」と「ブックス」が今回のワークショップのメインになりました。介護の現場で生じる「言葉を正すか、受け入れるか」について、実際に体験するワークです。このワークを通じて「認知症の人がなぜ感情的になるのか」について体験的に学び、その理由の一端が腑に落ちました。認知症は短期記憶の欠落や見当識障害により、私たちからみれば「脈絡のない発話」を行いがちになります。この傾向は認知症の中核症状にあたり完全に回復することは、現在の医学では望めません。一方で当事者にとっては「脈絡のない発話」もまた当事者の「文脈」においては理が通っています。当事者にとっては「正当な文脈」を介護の「文脈」に修正することの、暴力性を改めて感じました。相手の文脈に合わせ「演技」を行い、そして、二つの文脈の境界線を薄めていくようなことが、介護の現場では求められるだと思いました。ワークショップの経験を通じて、菅原さんのいう「介護と演劇の相同性」についてより深く理解できたと思いました。