ジャズ・シティ札幌の底力Ⅲ「南と北」 講評

花里康生(北海道放送元エグゼクティブプロデューサー)

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 11月14日(月)に行われたJAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDOの恒例企画「ジャズ・シティ札幌の底力」。3回目の開催となる今回は「南と北」と銘打ち、九州から5人のミュージシャンを迎えて、南北のミュージシャンが競演、熱いバトルを繰り広げました。
 「いま、北と南が面白い」ともいわれる日本のジャズシーンを象徴する今回のステージ。そのライブについて北海道放送元エグゼクティブプロデューサーの花里康生さんにご講評いただきました。以下、原稿です。


ジャズ・シティ札幌の底力Ⅲ「南と北」
花里康生(北海道放送元元エグゼクティブプロデューサー)

 文化庁の支援を受けて行われている「JAPAN LIVE YELL project」で、「札幌の底力」は、ジャズの街・札幌の魅力を発信し続けて来た。3回目となった今回は、「南と北」と題して九州と北海道のミュージシャンたちが熱いパフォーマンスを繰り広げた。
 九州チームは、ピアノの野本秀一やギターの田口悌治ら5人のベテランミュージシャンが参加し、ビ・バップの演奏などを通して、伝統に根付いたジャズの楽しみ方を改めて教えてくれた。北海道チームは、ピアノの山下ヤスシとギターの古館賢治、アルト・サックスの奥野義典ら6人が登場した。リズムセクションに若い女性ベーシストの片山沙知恵が加わっていたのが嬉しいところで、モダンジャズをベースに現代ジャズの新しい形なども伝えてくれた。

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 九州チームのボーカリストMAYUMIと北海道チームの玉川健一郎が、それぞれ相手方と共演し、両チームのミュージシャンが次々と入れ代わりながらジャムセッションするなど、南と北の“対決”シーンも盛り込まれた。とくに後者は圧巻で、いつまでも聴いていたいという思いにかられたのは私だけではないだろう。ふだんジャズに触れる機会の少ない友人は、「初めて会ったミュージシャン同士が、言葉で話さなくても、音楽で通じ合えるのはすばらしい」と感心していた。限られた時間の中で、素晴らしい演奏を重ねてくれたが、欲を言えば、同じスタンダードナンバーを南と北のグループが違う解釈やタッチでプレイするなど、さらに“対決”色を強めた演出もあった気がする。
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 ところで札幌では「ジャズの街になる」との思いを込めて、2007年から「SAPPORO CITY JAZZ」が行われている。今年も12月に札幌文化劇場hitaruで「シアタージャズライブ」があり、日野皓正や海野雅威など世界的なミュージシャンの演奏が話題になった。こうした華やかなステージの一方で、札幌など北海道を拠点に活躍するミュージシャンは影が薄くなってしまいがちだ。地元のジャズをクローズアップするためには、「札幌の底力」のような地域密着のイベントは欠かせないものだ。そして全国各地には、今回駆けつけてくれた九州勢などそれぞれの地元で活躍する多くのミュージシャンがいる。「南と北」は、そこに光を当てたイベントとして高く評価される。「札幌の底力」がこれからⅣ、Ⅴと続いていくことで、ジャズの街・札幌の成長に欠かせない舞台として益々定着していくことを期待したい。

●花里康生(はなさとやすお)
北海道放送元エグゼクティブプロデューサー
1954年札幌生まれ。1977年北海道放送入社。報道・制作現場で、ニュースやドキュメンタリー、ローカルワイドなど数多くの番組を手がけた。テレビ番組「核と過疎~幌延町の選択」が1986年「地方の時代映像祭」グランプリを受賞。ラジオ番組「凍えた部屋~姉妹の“孤立死”が問うもの~」が2012年「文化庁芸術祭」で優秀賞を受賞している。2019年退社。ライブハウスの生演奏やレコードを聴いて趣味のジャズを楽しんでいる。