さっぽろパペットシアター「北のおばけ箱2」レポート
from 講座受講生

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12月24日(土)・25日(日)に開催する「さっぽろパペットシアター『北のおばけ箱2』」。アイヌのお話に出てくる、ちょっととぼけていて、どこかかわいい北海道のおばけたちが大活躍する本作。今回は「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」受講生が、演出、舞台美術、手話通訳のそれぞれの担当者にお話しを伺い、本作の魅力に迫りました。

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「さっぽろパペットシアター『北のおばけ箱2」の見どころ紹介
「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」受講生/種村剛

 アイヌには数々の昔話が伝わっています。例えば「キムナイヌ」はアイヌの言葉で山の人の意味。つるつるのはげ頭で山の中で荷物が重くて困っているときに助けてくれる親切なお化けです。アイヌの首長の家系に生まれた言語学者・民俗学者 知里真志保が編集した『えぞおばけ列伝』には、ユニークなお化けの話が数多く収められています。
 今年のクリスマスに上演される「さっぽろパペットシアター『北のおばけ箱2』」は『えぞおばけ列伝』を題材に、北海道演劇財団・札幌座の斎藤歩氏が脚本を担当。さっぽろ人形浄瑠璃芝居 あしり座代表、前やまびこ座・こぐま座館長が矢吹英孝氏が演出・美術監督を務め、どんな人でもみんなで一緒に楽しめる人形劇になっています。
 人形劇の舞台美術と人形は、アートを通じて、一人ひとりの生き方や考え方を認め合える社会の実現を目指す、ボーダレスアートサポート北海道が中心となり、障がいのある子どもたちと一緒に制作を行います。このようにして作られた劇場のセットや人形が用いられることは「生の芸術」を意味する「アール・ブリュット」の考え方に繋がっているように思われます。
 そして今回の公演では、舞夢サポーターズによる手話通訳も行われます。手話はアカデミー賞を受賞した映画『Coda コーダ あいのうた』や『ドライブ・マイ・カー』にも登場し、劇中の感情表現の手法としても耳目を集めるようになりました。手話を通じた、身体を使ったダイナミックなコミュニケーションの可能性を、実際にこの目でご覧になって感じ取ってみてください。
 会場の札幌市こどもの劇場「やまびこ座」の舞台は、清潔感と温かみがあります。木目が生かされた客席との距離感もちょうど良く、本来の劇場のあり方を感じさせる作りになっています。
 お化けを題材にしたアイヌに伝わる民話を、ボーダレスアートと手話と人形劇で表現する「さっぽろパペットシアター『北のおばけ箱2』」は、北海道だからこそできる「誰一人取り残さない」理念を表現した作品になっています。どんな舞台が準備され、どんな人形が劇中に登場するのかを、ぜひ劇場に足を運んでご覧になってみてください。

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「かけ算で生まれる新たな世界」
「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」受講生/猪俣和奏

 「アイヌ物語×障害のある子供たち×手話通訳」。
 普段は交わることのなさそうなこれらをかけ合わせたらいったいどのようになるのだろう?
 12/24~25に札幌市こどもの劇場「やまびこ座」にて、アイヌに伝わるおばけの話を題材とした「北のおばけ箱2」が開催される。昨年度には「北のおばけ箱」として第1弾を実施しており、今公演はその反響に応えた第2弾である。
 第2弾公演決定に伴い、本作の演出・美術監督である矢吹氏、舞台美術担当でボーダーレスアートサポート北海道(BASH)の事務局長を務める卜部氏、手話通訳担当で舞夢サポーターズの渡部氏の3名をお招きしたオンライン取材が実現した。
 
 今回の劇のポイントとしては、アイヌの言い伝えをもとにした物語構成であること、子供たちを中心とした人形劇であり障害を持つ子供たちも舞台づくりに関わっていること、聴覚障害者にも劇を楽しんでもらえるように舞台手話通訳を取り入れることの3点が挙げられる。
 矢吹氏はこの劇を制作するにあたった経緯について「北海道にはやまびこ座というこどものための劇場があり、人形劇が盛んな場所である。それに加えて、近年アイヌが注目される中で子供たちにもアイヌ文化を知ってもらう機会を設けたいと考えた。今回の劇で来ていただく方に『人形劇の可能性』を伝えていきたい」と語る。
 また、障害のある子供たちとともに劇を作っていくことに関して、卜部氏によると「彼らはとても強いこだわりを持っており、そうと決めたら最後まで突き進める集中力がある。子供たちが持つぶれない発想を受け止めて形にすることで、こちら側の発想も広がる。やりたいことをやらせてあげられることがアートの可能性である」という。
 さらに、舞台手話通訳に関して、渡部氏は「聴覚障害の方のほとんどは劇を鑑賞せず、今回のような劇を設けたからといってすぐに親しみを持ってもらえるとは思わない。1歩にもならないような地道な努力を続けていく必要がある」と述べたうえで、「今回の人形劇で小さなお子さんなど手話に親しみのない人に、『このようなコミュニケーション方法もあるのだ』と少しでも興味を持っていただけると嬉しい」と語った。
 
 
 「かけ算」で生まれるにぎやかで心温まる世界。
 
 あなたの目を惹くのは、
 神秘的で奥深いアイヌの物語?
 かわいく楽しいおばけたち?
 役者顔負けの舞台手話?
 それとも…?
 
 大切な人と。愛する人と。仲間と。もちろんおひとりでも。
 クリスマスの素敵な夜に、ぜひとも体感してみてはいかがだろうか。