「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」レポート➁
「企画力を磨く」をテーマとした「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」の第2弾が10月17日(月)に開催されました。今回は音楽篇。東京文化会館事業企画課長の梶奈生子さんと同館のワークショップ・リーダーである磯野恵美さん、古橋果林さんを講師に、午前・午後の2部構成で実施。「東京文化会館の音楽ワークショップ~企画実現へのプロセスと実践~」と題し、同館が2013年からポルトガルのカーザ・ダ・ムジカと連携して取り組むワークショップ・リーダー育成プログラムと音楽ワークショップを実践的に学びました。
午前の部は座学。同館のワークショップ事業を開始当初から担当してきた梶さんが、その経緯やこれまでの取り組み、成果を紹介。この中で印象に残ったのは、ワークショップ事業がはじまった経緯です。貸館中心の事業では、来館者層が高額なチケットを購入できる富裕層に限られてしまい、またチケットの販売が優先されるため上演する作品も人気のある定番作品に偏ってしまうことから、観客のすそ野を広げていくために主催事業のひとつとしてワークショップがスタートしました。
現在、同館のワークショップのレパートリーは30作品にのぼり、館内で実施するワークショップのほかにも、小中学校や特別支援学校約40校でアウトリーチ活動を展開中です。その結果、2013年の開始時には約700人だった参加者が今では年間7,500人となり、さらには高齢者の孤立予防に向けた取り組みや聴覚障害者とともにワークショップを制作するなど、活動の幅がどんどん広がっています。
こうした同館の活発なワークショップ事業を支えているのが、ワークショップを企画・実施するワークショップ・リーダーの存在です。同館には現在16名のワークショップ・リーダーが所属。事業開始以来、ポルトガルのカーザ・ダ・ムジカと提携をしてリーダーの育成を行っていますが、当初から10年、20年という長期的視野に立って人材育成を考え事業を行ってきたことが今日の成功につながっていることも見逃せません。梶さんは言います。「事業を続けていくためには企画に説得力を持たせることが必要。企画の意義、ミッションを明確にして説得力を持たせていくことが予算を獲得する術になる」と。そして事業継続のために大切なポイントとしてもうひとつ挙げたのが「広報」。「成果を数値化したり、第三者に評価を依頼するなど、成果を広く公開していくことが重要」と語りました。
午後の部は、ワークショップ・リーダーの磯野恵美さん、古橋果林さんの指導のもと、実際に同館で行っているワークショップを体験。ひとつひとつのプログラムが行われるたびに、そのプログラムの企画意図や注意事項などが具体的に説明されました。また、個人の得意を活かすこともワークショックを企画するときのポイントとし、「さまざまなフィードバックから学ぶことは大切だが、すべてを聞く必要はない。カーザ・ダ・ムジカの講師からは、第2の誰かになる必要はない。№1の自分自身を目指しなさいと言われている」と指摘。
最後に「ワークショップを行うときは、最終的にどこに到達させるのか、めざすべき着地点を決めておくことが必要。ただし、対象の年齢やニーズによって到達点は変わるため答えがあるわけではないので、チームで都度決めていくことが必要。評価については数値化することも大切だが、数値化によってこぼれ落ちるものを拾い上げることができるような評価についても研究していきたい」としました。
ワークショップ・リーダー指導のもと行われた受講生による即興演奏。