「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」

基礎編「クリエイティブで地域の課題を解決する術を学ぼう」参加者レポート

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 9月に開催した第一回目の「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」は、地方自治体のプロモーションを手掛けヒット作を連発するクリエイティブディレクターの田中淳一氏を講師に迎え、企画づくりの基礎を学びました。
 当日の参加者は17名。参加者は本講座から何を学んだのか。受講後にまとめてもらった参加者レポートから3名のレポートを紹介します。

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阿部藍子(フリーランス〈俳優・制作〉)
「コンセプトを生むために必要な4要素」

 「態度変容を促す」のがクリエイティブディレクター。そんな冒頭の説明を聞いて人の気持ちを変えるなんて魔法みたいな仕事あるのかしらと思う。しかも田中さんは失敗しないという。何故なら「プロだから」。
 魔法みたいと思ったあとに「プロだから」という職人気質な返答を受けて、「態度変容」に対する華やかな印象とは真逆な態度変容を実際に起こす人の職種的な気質の堅さが講座に対する興味を引いた。目に見えず移ろいやすいものを捉えて確実に変化させるためのフレームワークを魔法使い兼職人兼クリエイティブディレクターの田中さんから受け取った。
態度変容を促すための企画をフレームワークは「①着想→②企画→③定着」の三段階に分けられる。その中でも着想段階でおこなうコンセプト設定は創作的思考の8割を占め、「いいコンセプトができればそれだけで企画は成功する」といわれている。そのため今回はコンセプト設定に焦点を当て、着想段階で「いいコンセプト」を設定するために必要な要素を整理する。
 着想段階は「課題発見」と「課題解決の目的設定」と「コンセプト設定」に更に段階がわけられる。「課題の発見」とは相手のぼんやりとした課題を要素分解し真の課題を見つけることであり、「課題解決の目的」とは課題を解決してどうなりたいか、という課題解決の結果として起こしたい態度変容の状態であり、「コンセプト設定」とはどのようにその態度変容を起こしていくかの企画全体指針のことである。
 そのため、コンセプトを設定する前段階として、「適切な課題の発見」と「課題解決の目的設定」を整理しておく必要がある。また、日々変容してく時代の中でコンセプトを効果的に設定するために「常に情報を得るソースを決めて変化の流れと知識」「課題についての知識」を溜めていくことも必要である。
 この4つの要素はいいコンセプト設定を行うにあたって全て必須の要素ではあるが、実際に企画を行っていく際には、特に今の状態を明確にするための「適切な課題の発見」や変容させた結果の状態である「課題解決の目的設定」の整理に注意を払い丁寧にヒアリングしていく必要がある。このヒアリングを誤ると数式が違えば答えが異なるように、本来の起こしたかった態度変容とは異なる態度変容を起こすコンセプトを設定してしまうことになる。
 「人口減少」という課題でも、課題解決の目的として起こしたい態度変容が「Dinksの人口増加」なのか「子育て世代の人口増加」なのか「リタイア層の受け入れによる人口増加」なのかで、コンセプトはガラリと変わってしまう。  今の状態を知って先の状態を変える。それは日々情報や話題を丁寧な整理・区分というとても現実的なことの積み重ねであると学んだ。

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猪俣和奏(北海道大学農学部1年)
「感情に訴える」

 私は現在、北海道大学の公認サークル「劇団しろちゃん」で活動しており、9月末には秋公演を控えている。私は役者として公演に関わり、現在稽古に励んでいる。
大学生から演劇に関わり始めた私は、演者・企画者としての経験が浅い。そのため少しでも多く経験を積み、札幌の演劇に携われたらと思い、学生インターンとしてこのプロジェクトに参加している。今回の講座「基礎篇:クリエイティブで地域の課題を解決する術を学ぼう」は、そんな私にとって非常に興味深く、考え方を広げるいい機会となった。
クリエイティブディレクターの田中淳一氏による今講座は、地域の課題を踏まえてプロモーションによる活性化を図る過程を学ぶものであった。前半の座学では、田中氏がこれまで手掛けてきた事例をもとに作品に至るまでのプロセスが紹介された。クリエイティブな発想というものはその場の思い付きで進められていくものと思いがちだが、何を解決したいのか・どうアプローチしていくかを繰り返し模索し、クライアントとすりあわせ。「必ず成功する作品」を作り上げなければならないという責任を常に負っているのだ。そんな中でもクライアントだけでなく受け手もしっかりと満足させる企画を練り上げる田中氏の姿には感服だった。受け手の「理性」ではなく「感情」に訴えることで、より印象強くメッセージを伝えられるのだと田中氏は語る。
後半のワークショップでは、座学で学んだプロセスを生かし、自ら課題解決に向けたコンセプト設定やイベントの企画を行うものであった。提示された課題は「札幌市に住む若者が札幌市に愛着を持つためにはどうすればよいか」である。私は自分も若者の部類に入ると考えて、日常生活でよく目にするものは何か、どうすれば居住地に愛着が持てるかを自分目線で探り、SNSを通した投稿キャンペーンを考案した。他の参加者の中には札幌の特産や時事ネタにちなんだユーモアあふれる企画を提案されている方もおり、会場内が笑いに包まれるとともに興味深い視点であると感じた。むしろそれこそが「感情に訴える」オリジナリティなのではないかと思った。企画を考案する段階で、安牌なものはむしろ失敗しやすいのだという。
今まで作品やイベントを「見る側」「参加する側」だった私にとって様々な意図に応じた企画を考案することは新鮮であり、今後劇団として活動するうえで必要な思考プロセスに触れることが出来た。私たちのような若い世代が、クリエイティブで柔軟な発想を持つことが札幌の、そして日本の文化を発展させるうえで重要になるのかもしれない。

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長広大(栗山町地域おこし協力隊)
地域課題を解決するにはハード面とソフト面のアプローチがある

 本講座は主に、クリエイティブを活用して地域に関わる経済課題や社会課題を解決していく方法や企画術を学ぶ内容であった。冒頭では、講師の田中さんが地域課題をどういった手段を用いて解決したのかを解説してくれた。地域課題を解決するにはハード面とソフト面のアプローチがあり、日本は行政機関を中心にハード面(施設やインフラ整備)での課題解決を進めてきた。しかし近年では、財政難や施策面でハード面による課題解決に限界が見えてきていると説明があった。そこで田中さんはソフト面すなわちクリエイティブの力を用いて地域の課題解決を行ってきた。クリエイティブな手法を使って人の気持ちを動かすことで、理性よりも感情に作用する解決策で人の態度変容を促して課題解決に導いてきた。この発想は行政機関で仕事をしているとなかなか辿り着かない発想であり、現代においてハード面でのアプローチよりも効果的な解決方法だと考える。

クリエイティブで地域の課題を解決する
 実際に企画を考えていく上で、以下のようなことが大切だと田中さんはおっしゃっていた。
・課題の本質発見、それこそがアイデアの源
・対話と取材を重ねる
・地域へのフォーカスを意識的に外す
・地域のものがたりを紡ぐ
・能動的に知りたくなるものを取り上げる
・地域のプライドは大切にする
・地元の人をいろんな形で巻き込む
わたしが実際に地域で活動しているときも、本質的な課題を見極めたり、対話を重ねたり、相手の普段の働き方などを考慮して慎重に話し合いを進める等、自分が大切にしている部分と重なる部分があった。外から関わって企画をつくっていく際には、地域への配慮が足りずに都市部の視点で物事を進めてしまう場合も多く見受けられるが、持続的な活動や企画をつくっていく上では、地域側がどう関わりたくなる内容にできるかが肝になってくると感じている。
田中さんの講座で解説されていた手法は、地域側を大切にしながら進めるアプローチが盛り込まれており、とても参考になった。とはいえ、結果を出さなければ企画を継続することもできないわけで、世の中の流れを捉えて、地域外の人が多く関心を持ってくれるためのアプローチも大切だと学んだ。鳥取市の事例において吉祥寺にターゲットを絞って広告を出すといった独自の手法は、結果を出すために大切な視点が盛り込まれていた。
地域側とじっくり対話し、本質的な地域資源を見極め、それを都市部の人も関心が持てるように翻訳し、人の気持ちを動かすクリエイティブを加えて物語を伝え、地域側も納得感を持った形で地域外へアプローチしていく。長く地域と関わっていく覚悟を持って、長期的な目線で企画を立てていく方法が必要だと講座の中で強く感じた。生半可な気持ちでは、地域と関われないのだと改めて身が引き締まる思いを感じた。次のセクションでは、実際に地域で行った企画術を紹介いただいた。

ワークショップ
 午後は実際に企画する際のワークフローを実戦形式で学んだ。
1. 着想(課題の発見&コンセプト設定)
2. 企画(アイデア開発)
3. 定着(クオリティコントロール)
基本的にどんな案件でも、この3つのワークフローに当てはめて企画をつくっていくことが大事だと学んだ。コンセプトとは「課題に対し、ソリューションとなる企画などを貫く基盤となる指針」のことで、これがないと企画のアイディアを深める際に、他の参加者から突拍子もないアイディアが出てきたり、企画の採用の基準が好きか嫌いかの好みになってしまうと解説していた。コンセプトをつくる際には「課題を解決する上で生活者に伝えたいメッセージ」を深めることが大切だともおっしゃっていた。コンセプトメイキングをすることで「プレゼンに説得力がつく、クライアントさんも納得しやすくなる、スタッフにも理
解を得やすくなる」という効果を得られる。インプットがないとアウトプットも出来ないので、事前の調査も大事である。
1. 普段から情報ソースを得ることルーティン化する
2. 課題(商品)について徹底的に調べる
3. 3行で説明できるシノプシス(あらすじ)にまとめてみる
上記のようなことを企画構想の際には、考えておくことが大切だとお話があった。
ワークショップでは「課題:札幌市に住む若者の札幌市への愛着心向上」というテーマで、企画やコンセプトを考えてみる時間があった。実際にフローにそって事前調査からやってみると、コンセプトを深める際にとてもアイディアが広がってつくりやすいように感じた。今後の企画案作成の際にもとても役に立つ内容であった。
この講座を受けた後に、田中さんの「地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術」の本を購入したので、じっくりと読んで、今回の講座の内容を改めて振り返ってみようと思う。