ジャズ・シティ札幌の底力Ⅲ「南と北」レポート①

南と北で魅せるセッションの魅力とは?

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 11月14日(月)に開催するジャズ・シティ札幌の底力Ⅲ「南と北」。「JAPAN LIVE YELL project」の好評ジャズ企画3弾は、九州から5人のミュージシャンを迎えて、北海道のアーティストとコラボレーションします。
 南と北で魅せるセッションの魅力とは?九州からは丹羽肇さん、北海道からは山下ヤスシさんという2名のジャズプレーヤー加え、企画制作の高堂理さん、構成演出の福居康子を招きzoom取材でお話を伺いました。

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南と北のシーンを育てる人と、場所

 ミュージシャンを目指して上京する、というのは昔からよく耳にするストーリーのひとつ。夢を叶えるために上京は欠かせないものだと、かつて多くの人が考えていました。しかし、SNS等の普及もあり、現在は地方から全世界に発信するミュージシャンも増えています。「福岡市は100万人以上の都市ですから、このまちでも音楽活動が成立するんですよね」と話すのは九州を拠点に活動するジャズベーシスト丹羽肇さん。「“地元に残る”も“東京に行く”も表裏一体です。上京することにはやはりメリットもあります。けれど、ツアーなどで著名なミュージシャンが九州を訪れた際にご一緒できる機会があったり、地元に留まっているからこそできる経験も多くあります。最近では若手も増えて人材が豊富になり、様々な編成で活動ができるようにもなりました」と、福岡のジャズシーンのいまを語ります。
 一度は上京したものの、都会の水が合わず北海道に戻ることを選択したというのはジャズピアニストの山下ヤスシさん。現在は滝川市で暮らしながら、札幌を拠点に音楽活動を続けています。「昔に比べて移動しやすくなったというのもあると思うんです。航空会社もLCCの参入で移動費も安くなり、東京にも頻繁に行けるようになったというのも大きいと思います」と移動のしやすさも、上京の必然性がなくなったひとつではないかと話します。
 さて、ジャズに限らず、南と北は優秀なミュージシャンが多く誕生しています。「南と北が熱い!」というのはジャンル問わず昔から言われていることで、その背景を丹羽さんは「これはあくまで私見ですが、中心(東京)を離れれば離れるほど、ミュージシャンとお客さんとの距離が密接になって行くのではないかと思うんです」と指摘。「何度か札幌でライブをした時に、お客さんがとても盛り上げてくれて、その空気感がとても九州と似ているものを感じました。客席との密度は札幌と九州は似ている部分があると思います。こうした密な関係の中で、自分の音楽にしっかり向き合えるというのが、北と南の強みなのではないでしょうか」。さらに地方の音楽シーンを語るには、ミュージシャンを育てるライブハウスをはじめとしたお店の存在も欠かせません。「若くて荒削りな頃から、ゆっくりと醸成しながら励ましを受けて、アドバイスをしてくれたり、背中を押してくれたりと、育ててくれる環境があります。今回、構成・演出を担当してくださる福居康子さんのお店「スローボート」はまさにそういった環境のひとつでしょう」と丹羽さんは語ります。
 ミュージシャンを育てる人と場所の密接な関係性。南と北の共通点はそこにあるのかもしれません。

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北と南が魅せるセッションの魅力

 「アーティスト同士が出会った瞬間に必ず何かが生まれる、それがジャズの面白さだと思っています」と話すのは福居康子さん。福居さんのご主人は、国内外で精力的な演奏活動を展開し、札幌文化奨励賞も受賞した北海道のジャズピアノの第一人者である福居良さん。康子さんは2016年に福居良さんがご逝去された後も、夫婦で営んでいたジャズバー「Slowboat(スローボート)」の店主として札幌のジャズシーンを支えています。今回のライブでは、福居さんは演出として参加。「演出といっても、私はこの人とこの人が一緒にステージに立ったら面白いことが起こりそうとか、この人のこの曲を弾いてほしいとか希望を伝える役割です。セットアップをしたら、私自身もその展開を純粋に楽しみたいと思っています」と笑顔で話します。
 「ジャズは究極の個人主義。けれど、出会った瞬間に言葉は通じなくても、即興で音楽はできるんです。私自身、ジャズに魅せられたのもそうした即興の喜びでした。ジャズの面白さを是非ともみなさんにも楽しんでもらいたいですね」と丹羽さん。山下さんも「今回は初めてお会いするメンバーがたくさんいます。この時に生まれる音楽は、この瞬間限りのものです。何が生まれるかわからないドキドキも含めて楽しんでもらいたいです」と本番に向けて期待を寄せています。
 南と北のメンバーが出会い生まれる化学反応は一体何を見せ、聞かせてくれるのか。ぜひ、会場で体感してください。