インタビュー

INTERVIEW

「演劇シーズンがやらなければ、演劇はずっと止まってしまうのではないかという危機感がありました」

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札幌演劇シーズン実行委員会 事務局長
高堂 理さん

 札幌でつくられた優れた演劇作品を再演し、小劇場中心の公演ながら年間1万人を超える観客数を記録する北海道最大の演劇フェス「札幌演劇シーズン」。高堂さんは、このフェスを運営する実行委員会の事務局長にこの春就任したばかりですが、夏にコロナ禍の中で行われた演劇シーズンでは、開催前、そして22日間に渡る開催期間中の感染症対策を指揮し、出演者・スタッフ、お客様からも感染者を出すことなく、公演を無事終了に導きました。
 一方で今回の「SAPPORO Borderless Live Arts CARAVAN」では、札幌のJAZZミュージシャンが一堂に会する特別LIVE「ジャズ・シティさっぽろの底力」を発案。新型コロナウイルスで打撃を受けた多くの札幌のミュージシャンたちとともに、LIVEの力で北海道にエールを贈ろうと、公演の準備を進めています。お仕事で多忙な中、演劇にJAZZにと、札幌のLIVEシーンを陰から支える高堂さんに、今回はコロナ禍でのLIVEの意義などをお伺いしました。

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ー札幌演劇シーズンの事務長に、この春就任されたそうですね。すでにコロナの影響がさまざまなところで出ていたと思いますが、実行委員会や事務局の中では、当時、どのような話をされていたのですか。

高堂 まず、就任してすぐに、夏のシーズンを開催すべきかどうかという難しい決断を迫られることになりました。春の段階では、その先どうなるのか全く分からなかったですし、当然今回は見送るだろうと思っている人も多かったのではないかと思います。演劇シーズンは実行委員会に札幌市が入っていますが、春から夏にかけての札幌市主催のイベントもすべて中止になっていたと思います。「今年の夏も札幌演劇シーズンをぜひやりましょう」とは、なかなか言えない状況でした。

ー他のイベントが中止になる中で、夏の開催に踏み切った理由は?

高堂 そのときは緊急事態宣言などもあり「誰もできない」という状況が続いていましたが、「誰かがしっかりとした対策をしてやっていく」という状況をつくることが大切なのではないかと考えていました。そして「誰かがやる」としたら、演劇シーズンのように公共性のあるところが行うのがよいのではないかと。演劇シーズンがやらなければ、このまま演劇はずっと止まってしまうのではないかという危機感もありました。

ー今回の夏の演劇シーズンは開催前の稽古期間中や会期中、開催後の経過観察期間を含めると終了まで約2ヶ月間かかったのではないかと思いますが、ひとりの感染者を出すことなく終了しました。感染者が出すことなく終えることができた要因はなんでしょうか。

高堂 劇団、劇場、そしてお客様の協力があってこそではないかと思います。劇団、劇場には公演2週間前から事務局に毎日体温と体調を報告してもらいました。また、札幌市のコロナ相談窓口なども利用しながら情報を集め、発熱者が出たとき、周りの人が感染したときなど、さまざまなケースを想定して対応マニュアルをつくっていきました。
夏は幸いひとりも感染者が出なかったのですが、感染してしまうリスクは誰にでもあることなので、体調に変化があったり、ちょっと体温が高めのときなどは、ためらうことなく報告してもらえる環境づくりも、対策と同時に大切なことだと考えていました。仮に何か起きても、ケアをしっかり行い、情報を全員で共有していくということを事務局としてもしっかり行っていこうと考えていました。

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徹底した感染症対策のもと実施された札幌演劇シーズン2020-夏

ーこの冬は夏とはまた違った状況下での開催になりそうだが、対策などで考えていることはありますか。

高堂 夏のシーズン終了後に、「どういう対策をしていたのですか」という問い合わせを全国各地からいただきましたが、この冬も基本的には夏にしっかりやってきたことを徹底していこうと考えています。ただ、問題は、換気とお客様が開場や受付を待つときの場所の確保。小劇場はロビーがそれほど広いわけではなく、夏は外で待ってもらっていましたが、冬の寒い時期はそれが難しくなります。夏のやり方でうまくいくのか、新しい方法を考えなければならないのかを劇場の方々と一緒に考えなければいけないと思います。手指消毒や検温、換気などの基本的なことをしっかりやりながら、新たな課題に粛々と対応をしていかなければならないと思います。
夏のシーズンでは、こんなことが起きるんだということをたくさん体験しましたが、「今のままでいい」ということではなく、「今はここまでは分かりました。これからもっと勉強していきます」という気持ちですね。

ー今回のSBLACでは「ジャズ・シティさっぽろの底力」というライブ企画にも関わっていらっしゃいますが、この企画を行おうと思ったのはきっかけは?

高堂 実は札幌は毎年開催されている「サッポロ・シティ・ジャズ」がとても有名ですし、ジャズを毎日やっていおるジャズBARやジャズクラブも十数件はあると思うんです。そこでは毎日演奏を生業としているプロのミュージシャンや、仕事の傍らで演奏している人もいます。さすが「シティ・ジャズ」が開催されている街だけあってジャズが盛んです。ところが、「シティ・ジャズ」は知名度がありますが、札幌のミュージシャンはなかなか知られる機会がない。なので、実力ある札幌のミュージシャンを広く知ってもらいたいということもあり企画をしました。札幌から道外・海外に出て活躍している人もいますし、レベルが高いので、その人たちのプレイをぜひ見てほしいと思います。内容の濃いプログラムになっていると思いますよ。

ー札幌のジャズシーンの特徴や魅力を教えてください。

高堂 音楽的にいえば、演奏している人が多いため、いろんなジャンルを聴くことができます。また、ライブ配信を続けているところもあるので、そこでも楽しむことができます。
ジャズってどんどん上手くなっていくんです。その人の中で変化をしていくところがあって、ここまできたからもういいということはなく、少しずつ変わっていく。見ている側としてはその変化が面白いですね。また、ジャズのいいところは、どんな組み合わせでも演奏できること。決まった組み合わせがあって、それしかできないのではなく、初めてでもいろんな組み合わせで演奏できるという面白さもあります。

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豪華メンバーが一堂に会する12月13日(日)のLIVE「ジャズ・シティさっぽろの底力」

ーこのコロナ禍で札幌のミュージシャンやライブハウスも大きな打撃を受けたと思いますが、当初はどのような状況だったのか。また、現在はどのような状況でしょうか。

高堂 お店は大変ですね。お客様が少ないとダイレクトにミュージシャンの収入にも影響が出てきます。でも、みんなで乗り越えてくために頑張っています。演奏は別に声を出すわけではないし、ボーカルも目の前にアクリル板を置いて歌っています。お店の方もミュージシャンも検温・手指消毒はもちろん、明日から演奏ができなくなったら大変なことですから、感染症対策にはものすごく気を遣っていますし、徹底していますね。

ーコロナ禍の中でLIVEを行うことについてどうお考えでしょうか。

高堂 自分がこれから音楽をやりたい、演劇をやりたいと思っていても、活動が止まってしまえば、せっかくの才能が埋もれてしまうかもしれない。特にパフォーマンス系は「場」が必要。一人一人が伸びていくためには、やりたいことができる活動の場がないといけない。それをどうやって確保していくか。個人や劇団でも考えていかなければならないことですが、例えば演劇シーズンとして、感染症対策を一緒に考え課題をクリアして公演を実現していく。そんなふうにして誰かが続けていくことが大切だと思います。一人では何もできないけれど、みんなが力を合わせるとできることはたくさんある。僕たちは今、できるかぎりのことをしっかりやって、なんとかこの活動を続けていきたいと思っています。

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ー最後に12月13日の「ジャズ・シティさっぽろの底力」と2月の「札幌演劇シーズン」の見どころを教えてください。

高堂 演劇シーズンは北海道演劇財団の斎藤歩さんをプログラムディレクターに迎えましたが、プログラムディレクターは単に作品を選ぶだけでなく、ときには劇団と協力しながら作品のブラッシュアップも行っていきます。ですから今回の3作品がどうなっているのか本番が本当に楽しみです。「前に観たからいいや」ではなく、前に観たからこそぜひ今回も観てほしいですね。間違いなく、札幌の演劇シーンの中で粒選りの作品に出会えると思います。
また、一期一会のステージを楽しむという点では演劇もジャズも同じです。お客様とパフォーマーの一度限りの充実した時間を楽しんでもらいたいです。今回のジャズは、豪華メンバーが出演します。他ではなかなか見られないと思いますので是非会場にお越しいただければと思います。

profile 高堂 理
株式会社北海道ブランド研究所代表取締役。秋田県生まれ、広告会社の電通に41年間勤務、クリエーティブ・ディレクター、ビジネス統括局局長、電通北海道代表取締役社長などを歴任。退職後、札幌で北海道ブランド研究所を開設、5年目に入る。今年度から札幌演劇シーズン実行委員会事務局長を務める。