ゲキカン!


作家 島崎町さん

札幌演劇シーズン冬の特別企画「高校演劇Special Day」。1月あたまに行われるこの企画は、高校演劇になじみのない人にも開かれた公演で、僕は毎年楽しみしている。

市立札幌啓北商業高校『ラフ・ライフ』は、同性の女の子に告白されると思いきや、漫才コンビ結成をお願いされるという、意外な展開からはじまるコメディーだ。

わかりやすい話で、3幕でかっちり収まる。キャラクターの色分けがあって、役者もさほど多くない。随所に笑いがあり最後はグッと感動で終わる。まとまった脚本だ。高校演劇ではたびたび上演されている演目らしいので、やっぱりやりやすいのだろう。

逆に言えば、極端に際立った部分だったり、とがった部分があるわけではない。舞台化するにあたっては、作る側の個性が問われるのかもしれない。

そういった意味では今回、啓北商業高校の個性は役者だったと言える。まあ、「舞台は役者のもの」と言うそうだから、ある意味当然なのかもしれないけど、でもよかったのは役者だ。

特に、漫才に誘う生徒を演じた木口鈴菜は独自の色を出していた。おっとりしていながら芯があり、笑いの生みだし方もうまかった。人のテンポに引っぱられず自分のテンポがあった。この役がしっかりしていたからこそ成立した舞台かもしれない。

いっぽう、誘われる側の学級委員長を演じた目黒七海は、緊張感は残っていたが、いやいやながら漫才に巻き込まれていく様が面白かった。

その友人役は澤田愛佳。この役はともすれば埋没してしまいそうな、いちばん“なにもない”役なのだけど、役者から発せられる自然な明るさがよかった。友人が漫才に誘われ別の子と日々稽古をしはじめるのだから、疎外感がうまれても仕方ないのだけど、彼女の持つ「陽」がむしろコンビふたりのにぎやかしになっていて、よい関係が生まれていた。

学級委員長にライバル心を燃やす生徒会副会長を演じたのは髙瀨百海。マンガ的なわかりやすいキャラで好演。いいアクセントになっていた。

生徒会長を演じた為国絢翔の演技は、上手い下手で論じられない独特の趣があった。副会長に思いを寄せらているが微塵も気づいていないようで、鈍感さを通り越し浮き世離れしている様は妙に高貴な感じまでした。

5人それぞれが役をしっかり演じ、作りあげた舞台だった。そうそう、部員は6人なのでもうひとり、音響を担当した瀬出井綾子の名前もあげておく。けっきょくお芝居というのはチームプレイなのだ。

最後に。

当初、高校演劇Special Dayは、富良野高校『お楽しみは、いつからだ』と啓北商業高校『ラフ・ライフ』の2公演を予定していた。が、富良野高校の公演は中止となった。くわしい理由はわからないが、新型コロナの影響を考えずにはいられない。

最近縁あって『舞台上の青春』(相田冬二)という本を北海道新聞の書評に書かせてもらった。富良野高校も出てくるこの本は、全国高等学校演劇大会(全国大会)に出場する高校を取材したドキュメントだ。2020年、コロナによって全国大会は舞台公演が中止となり、各校がビデオを撮りウェブで公開という形になってしまった。

富良野高校は2019年の北海道高校演劇発表大会(全道大会)で最優秀賞となり、2020年の全国大会へ進んだが、前述のとおりコロナで公演ができなかった。だけど2020年の全道大会でまたしても最優秀賞を勝ち取った(すごい)。しかし今度は演劇シーズン特別企画に出られなくなった……。悔しい状況だけど、出場する2021年の全国大会が無事行われることを願っている。

全道大会で優秀賞の啓北商業高校は、本作『ラフ・ライフ』をひっさげて3月の春季全国高等学校演劇研究大会(春フェス)に出場する。こちらも無事開催され、この舞台の笑いが客席に届けられることを願っている。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。2017年に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
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