乱雑に置かれた漫画雑誌、もう随分と洗濯されていなさそうなタオルケット、麻雀卓、ブラウン管テレビetc。
細部までこだわり抜いた舞台セットが本当にお見事で、座席に腰を降ろすなり、思わずオッ!と身を乗り出した。
貞球部ってなんだろう?あ、ブラーが流れている、懐かしいなぁ・・・なんて思いながらソワソワしていると幕が上がった。
きまぐれポニーテール「King of Rock'n Roll」、3日目。
一体どんな部活なのか、そもそもスポーツなのか!?謎が謎を呼ぶ「貞球部」の部室が舞台だ。
部員の男子高校生たちは、グラビアを眺めて採点をしたり、漫画を読み耽ったりと、不毛な時間を堂々と消費していく。そのどうしようもない会話のくだらなさが非常に笑えるし、そもそも登場人物の名前が揃いも揃ってプロレスラーっていうのも、笑ってしまう。
飛び交う罵詈雑言や二度と忘れることのできない強烈なインパクトを放ちまくる登場人物たち・・・。とにかく笑いの打率が高く、強烈な引力で観客をぐいぐいと引っ張り回してくれる。もう、参りました!というほどの面白さ(隣に座っていた若い男の子はもはや身体をふたつに折り曲げて笑っていた)。
凄まじいハイテンション&スピード感を維持しながら、破綻することなく物語が進んでいくのがすごいやら、面白いやら、素晴らしいやら!この爆発力は圧巻だ。
窮屈な部室の中で、スケールの小さな大問題を前に右往左往する彼らと同時進行で、世の中は着実に物騒な方向へと進んでいることを、ブラウン管テレビが伝えてくれる。
これまで非日常だった出来事が、日常顔で毎日に浸透する不気味な手触り。
ここ最近の世の中と通じるものがあって、ドキリとする。
もちろん彼らの日常にもその不穏は浸透していくけれど、やっぱりドタバタは変わらない。
友情、恋愛、喧嘩。青春っていうのは半径1メートルくらいで起こる事件がすべて。ミクロな世界の中で、行き場のないマクロなエネルギーを持て余し、ジタバタするのが思春期だったりするものだ。
物語は終盤、想像を超える展開を見せる。
鬱屈さと衝動を抱え、辿り着いたラストに私はやっぱり抗いたい。
青春と、初期衝動が合わさると、音楽が、ロックが生まれることもあるんだよ!とギターを抱えて追いかけたい。私自身が行き場のないエネルギーを抱えて劇場を後にする、この余韻!・・・続きが見たい!
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劇場に入って、オッと思った。
舞台がかっちり作られている。汗くさく、かつ怠惰自堕落な部室のセット。小上がりめいた三畳のスペースに雀卓。壁一杯の棚には一番上までなにやらわからぬものがぎっしり詰め込まれ、かつ使われずに埃を被っている。
落書きだらけの壁。つきなみで下品な落書きがこの部屋の主たちのおさなさを表現している。
「貞球部」、なのだそうだ。「庭球?」違う「貞球」。なんだそれ?
ドアには黒々と貞球部と大書されているが、「貞」の字の横に「子」が。
「貞子」か? 「貞子の球部」なのか?
舞台中央に目をもどすと、そこにレトロなブラウン管の小型テレビ。VHSのビデオデッキもある。
このセットが、観客の期待を高めるのに大いに役立っている。
きまぐれポニーテール公演「キング・オブ・ロックンロール」初日の開幕だ。
早々にいきなりテレビが点き、ニュース。
ミサイルがどうしたとか、国内に着弾したとか、そして消える。
いかにも怠け者の男子高校性やダメダメ教師など、始まりからテンポよくつぎつぎクセのあるキャラが登場。
舞台は少年漫画的にスピーディーに展開する。ひとつひとつのギャグが的確に笑いを呼ぶ。
若干レトロな設定の中、コミック的な速度、コミック的なギャグ連打に引き込まれてゆく。
登場するだけで思わず笑いを呼ぶROMAN演じる「番長(兼生徒会長兼手芸部長)」や、ギャルトークを炸裂させる池江蘭演じる「ブロディ」の爆笑起爆力にすっかり感心してしまった。
それぞれ性格の違う無気力な高校生と、生徒会の権威をかさにきた手芸部の女子たち、大人の事情で右往左往する教師など、みなキャラが立っていい演技。
コメディとして笑いながら見て、それで終わり。もう十分な舞台なのではあるが、ここに青春コメディを無視しながら一貫して舞台を降りようとしないもう「ひとり」の異質な登場人物がいる。
それが「テレビ」である。
テレビはときどき、ニュースやらドラマやら通販番組などを流す(余談だがこれがとても良く作り込まれている)。
この芝居は汚い部室から終始一歩も外に出ないが、この一台のテレビが「窓」となって外界のできごとを伝え続けている。いつものテレビの軽薄な内容で。
しかし外で始まっている背筋の寒くなるような「現実」。
そして、登場人物の不自然なほどのテレビへの無関心。
舞台で繰り広げられる高校生ならではの愚かなドタバタ、喧嘩、恋、失恋。ありあまった若さが笑いをつぎつぎと起こす。
同時にテレビという「窓」が同じ舞台に穴を開けている。
この不気味な謎が、はたして最後にどうなるのだろうか。
ああ、しかし、このエンディングでいいのか!
私には疑問が残ってしまった。
だがその問題のエンディングは、どうか皆さん劇場に足を運び、その眼で目撃してほしい。
「これでいい!」「いや、ダメだ!」
観劇後のそんな議論が、暑い夏を乗り切るおいしいネタとなることだろう。
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いやはや、めちゃくちゃ猛スピードで駆けていく舞台を観た。観た、というより面白い漫画を読んだ、という感覚に近いかもしれない。キャラクターがいきいきとして、息もつかせぬ展開で、ページを捲る手が止まらなくなり、良いところで「次号につづく!」の文字。ああ、まだ読んでいたいのに!そんな読後の余韻のようなものに今は浸っている。
舞台は、童立桜ン坊高校貞球部の部室から始まる。部員はキラキラリア充とは真逆の青春を送る、じめじめ湿った日陰に生えるシダ植物のような冴えない男子3人衆。特に目立った活動もせずにダラダラと過ごしている様子だが…。
このむさ苦しい輩の吹きだまりである部室、この舞台セットがまた素晴らしい。
畳3畳に麻雀とブラウン管テレビ、積まれた漫画にグラビア雑誌…雑多でほぼごみ屋敷的な部室だが、彼らの鬱屈を増長させる素敵なお城になっている。
次第に部室に集まってくる粒ぞろいのヤバい教師や番長、女子達。甘酸っぱい恋の予感かと思えば血で血を洗う戦いが始まり、とにかく物語のテンポが早い。
漫画に例えれば、キャラクターの背後にパアッとバラの花が咲き乱れた次のページでは、拳のぶつかり合いのスピード線や効果線が走り、「ドォーン!」「ズバッ」などオノマトペが紙の上に飛び交っている。作画アシスタントがなかなか苦労そうである。部室の背景や小物も細かいし。
キャラクター各々が生き生きと魅力的なのは、作画の先生が丁寧に愛情をもって描いているからだろう。キャラの輪郭がはっきりと濃く、躍動のある線が浮かび上がって見えた。3コマに1回は笑えるギャグもあり、飽きない。
勝手に作品にキャッチコピーをつけるなら、「性春☆スーパーハイテンションラブ&バトルコメディ」。
面倒くさい思春期真っ只中の、破天荒で真っ直ぐで、ドキッとする青臭さがたまらない。
個人的に助演女優賞を差し上げたい、池江蘭さん演じるテキトーギャル「ブロディ」。ルーズソックスやデコ電、制服の着崩し方には、個人的に懐かしい琴線に触れるものだった。今から約20年前だろうか…(遠い目)。振り切った演技で「女子の若気の至り」を体現されていた。
性春の小規模な戦いと、ブラウン管越しに感じる、何やらきな臭い世の中の気配。
どうする、童立桜ン坊高校貞球部!
がんばれ、童立桜ン坊高校貞球部!
しっかりしろ、童立桜ン坊高校貞球部!
果たして物語の行方は!?
漫画であれば「次週につづく!」とか「待て!次号」であるが、やはりここは「行け!劇場」と煽り文をつけておこう。
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ロックとは若さだと思う。比喩的にも。
それは、まだ火が通ってないのに、いいから喰えと出された料理のような。固い部分をバリバリ食うしかない。まだ野性味がたっぷり残ってる。えぐみもあるけれど、けっこういける。ほかにはない味がクセになる。
きまぐれポニーテール『King of Rock'n Roll』。だらだら遊ぶことが唯一の活動といった謎の部活・貞球部(ていきゅうぶ)。その部室を舞台にした、パワフルでめちゃくちゃなお芝居だ。
いちおうストーリー的には、部室剥奪の危機をめぐる騒動があったり、複数の恋物語が展開されたり、折に触れ挿入される戦争をめぐるテレビ報道があったり、まあいろいろあるんだけど、ハッキリ言ってこの劇の面白さはそこではない。
物がみっちり詰めこまれ演技スペースあるの? と思ってしまう貞球部の部室で繰り広げられるその場その場のテンション、パッション、ノイズ、喧噪、罵詈雑言、それらを総体として「青春」と呼んでもいいかもしれないけど、その、くだらないなんの価値もない時間の浪費の輝きが最高だ。
男子高校生は粗野で未熟なやつらだ(僕もかつてそうだった)。完成されてないことだけが唯一の価値と言ってもいい。そんな、まだ固く、えぐみまである青春という味、ロックという刺激をよくぞここまで舞台化した。役者の個性、脚本の荒々しさを、躍動しキレのある演出がまとめあげたと思う。
役者はツインギターとでもいうべきふたり、ハシモト役の足立泰雅(劇団怪獣無法地帯)、チョーノ役の百餅がよかったし、終始ブレないムトウ役・岩波岳洋は低音担当のリズム隊か。ケンスキー役の長谷川健太はわちゃわちゃした脇役のようでもあるが、実のところ舞台を引っぱっていたのは彼で、僕にとってはボーカルだった。
この舞台はすべての役者がよく、全員の名前を挙げたいところだが最後にひとりあげるとしたらフジナミ先生役のサイトータツミチ。アクセントとして申し分なく、笑いもとれ、観ていて純粋に楽しかった。
さてこの舞台、単なる青春物に終わらず、終盤驚くべき展開が待っている。実のところ僕はその部分の効果については納得してないというか消化不良なのだけど、でも冒頭に書いたようにロックは固い部分のある粗野な味だ。この舞台もまたロックであるなら、この消化不良もむしろ狙いなのかもしれない。
でも僕は、あのあとの物語の方が気になるんだ。いま僕が観たいのはその部分なのかもしれない。ああなったあとの貞球部の様子。雰囲気はどうなんだろう。変わらないのだろうか。それでも彼らは、いつも通りバカを繰り返すロックな青春を送りつづけることができるのだろうか。
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