ゲキカン!


作家 島崎町(しまざきまち)さん

<ネタバレあり版>

というわけでネタバレありです。ここからは、観た人のみが読めます。
観てもいないのに読む人は宇宙人に喰われます(早くもネタバレ)。

さて本作は、演劇のよさが前面に出た作品だった。映画ではできないことをやっている。宇宙人、あるいは宇宙人にボディスナッチされたものとおなじ空間にいる、という臨場感だ。

これはやばい。安全圏でスクリーンを見ている映画と違って、おなじ空間で数メートル、人によっては手が届く距離にそれがいる、という本能的な恐怖。

もちろんそれは、リンノスケ(きっとろんどん)と大森弥子(Takako Classical Ballet)の身体性が生みだす、人ならぬもの、異形なるもののリアリティあってのことだ。正直、七瀬ヒカリがボディスナッチされて以降、彼女の登場シーンは釘づけで、ほかのセリフが入ってこなかった。それくらいすごかった。序盤、誇張された美人の転校生という偶像が、宇宙人のおぞましくぎこちない動きに支配される。それが、ぞわぞわとした背徳感を生みだす。

いっぽうリンノスケの動きは舞踏的だ。大森演じる七瀬よりも先に肉体を手に入れ、人間生活に溶けこんでいた彼は、ヒトの体の操り方を楽しみだしているようにも見えた。

それに、西野リョウタというキャラクターの、どこか、ここにいない感じ。最初、あきらかに田舎の中学生じゃない雰囲気で、なんだろう? と思っていたら、なるほどそういうことだったんだ。彼が最後にとった行動は、そこだけ切りとってもSF作品たりえる題材。あの宇宙人にとって異性愛なのか同性愛なのかわからないけど……まあ、異星愛だったのかな?

観劇後、僕は劇場を出て、寒い札幌の街をひとり歩いた。あのチープな急速冷凍機から数百年後目覚めた結城(塚本奈緒美[札幌FEDE])が、宇宙人が支配した地球で、生き残りのわずかな人類を束ねて戦う、安っぽくも最高な続編を想像しながら……。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。2017年に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
ドラマラヴァ― しのぴーさん

 いやー、面白かった!ホント、面白かったです。井上悠介の本とシグナチャーのある作風が実に秀逸。個人的には映像を使った演出は好みではないのだけれど、ビジュアルもビシッと決めてくれました。入れどころもうまかったなぁ。「きっとろんどんはいいよ。一度ぜひ観てみて」とお芝居好きの友人たちから「噂」は聞いていたけれど、噂以上で感動した。
 ドラマを担当していたころ、東京に出張すると毎晩のように下北沢通いをしていた。本多劇場やスズナリはもちろんのこと、特に駅前にある駅前劇場や「劇」小劇場で芝居を打つ野心満々だったり、なんだか知らないけれど芝居熱にあふれた無名の劇団の芝居を観るのが好きだった。ナイロン100℃や大人計画、劇団、本谷有希子もそうして育ったし、札幌にも来てくれるようになった京都を本拠地にするヨーロッパ企画もそうだ。これからご覧になる方には、激奨したいと思う。快作!大化けする、予感がある。
 きっとろんどんは、2016年に作・演出を担当する井上悠介、久保章太、山科連太郎、リンノスケの男4人で結成したユニットだ。「発光体」は旗揚げ2作目の作品で初演は2017年。3日で400人を動員したというから大したものだ。札幌演劇シーズン参加作品になるとチケット代も高くなるし、トップバッターとしての責任感ひしひしだと思うけれど、今回、BLOCH(定員100人)での12ステージ。1,000人超えるかもしれない。
 終演後、山科連太郎から、ネタバレ禁止3つのお願いがあったので、ゲキカン!で書くことはほぼないように思う。演劇、演劇していなくて、なんだろう、舞台なのだけれどが、昔のテレビ番組でいえば「笑う犬」とか「トムとジェリー」の笑いの質のようにも感じた。ディテールがしっかりしているのも好感。小道具として懐中電灯がよく効いていて、暗転した舞台で観客席の後ろから聞こえてくる台詞だけで見事に成立させる。人物を映さない、ほとんど放送事故かと思うほどの黒味満点な夜間ロケなど、独自の世界観をつくってしまった「水曜どうでしょう」のリズムのようなものも感じた。
 ギャグだとか、アドリブの身内ネタではなく、ちゃんと台詞と芝居で観客を物語に引き込んで笑わせてくれる。簡単なようだけれど、とても難しいことだと思う。1時間50分とどちらかといえば長尺の芝居だけれど、実に巧みな筋立てと構成で魅せてくれた。人物もよく彫られていて、客演の俳優陣もチャーミングな持ち味を発揮していた。個人的には、本作が初舞台という七瀬ヒカリ(このネーミングセンスもいいですね。とても懐かしです)役の大森弥子(Takako Classical Ballet)がとても印象的だった。3歳からクラシックバレエを学び、北見から札幌に出てきてコンテンポラリーダンスと出会って衝撃を受けたという。柔らかい身体で、あんなに湾曲するんだ、とか、関節ってあんなところで曲がるんだとか、それはそれでちょっぴり怖かった。リンノスケが札幌演劇シーズン2019-冬で演じた千年王國「贋作者」の鴈次郎は格好良かったけれど、本作ではほんとにぬるっと得体が知れない感じがして好きだった。
 オープニングで流れるテレビ番組映像からヤラレタ(小島達子、小林エレキ、山田マサル)。ホントに懐かしい日テレの「木曜スペシャル」!日本でUFOものや超能力ものを流行らせた伝説のテレビディレクター、矢追純一大先輩を思い出した。Wikiで調べたら御年84歳、どうやら現役らしい(怖いですね)。本編の冒頭で転校していなくなる南戸ユウ(井上悠介)、河原で凧揚げしている謎の関ヶ原タカシ(木山正大)、宇宙人研究機関の結城(塚本奈緒美)と軒並み伏線を回収していく。終幕の回収はちょっと遠かったけれど、「そこっ!」とイマジナリーラインを超えて気持ちいい。もうひとシーン前の北大路(山科連太郎)の「ごめん」という台詞で終わっても割とじんわりと余韻が来たと思うけれど、人類を救ったはずの北大路の困惑した表情がこの劇の上がりを象徴していたと思う。作家性のある優れた本とちゃんと立ち位置を与えられている人物たち。大きな伸びしろを感じたし、なによりも全員が楽しんで芝居をやっているのが伝わってくる。
 そういえば、中学2年生の時、詩子ちゃんというとても髪のきれいな美少女が転校してきて、僕は恋に落ちた。詩子ちゃんと僕はお付き合いをして、学校近くの公園のベンチの裏に咲いていた夾竹桃の茂みの中でキスをした。今でも詩子ちゃんの顔を思い出すことができる。だからといって、「詩子ちゃんが、人間だったって言えんの?」と聞かれたら、うーん、とうなってしまいそうな気がしないでもない。

ドラマラヴァ― しのぴー
四宮康雅、HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴28年目にしてソウルは未だ大阪人。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞ではドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。
ライター・イラストレーター 悦永弘美さん

物語の舞台は199×年のオカルトブーム真っ只中。けれど世の中のムーブメントなんのその、彼らは東京からの転校生・七瀬さんに夢中。七瀬さんを誘って決行した肝試しの夜、校舎の西に光る何かが目撃されて・・・・・。

演劇シーズン2020のトップバッターはきっとろんどんの「発光体」。私は初日に観劇しましたが、BLOCHは超々満員。ここ数日、札幌の冬もようやく本気を出してきて、その夜も外はとても寒かったのだけれど、劇場内の熱気は凄いものでした。

青春、初恋、未確認飛行物体、世紀末。
これ、私の大好物なキーワードです(ここにゾンビがプラスされたらもはや完璧)。
小説にしろ、映画にしろ何かを鑑賞する際の作品選びにも大きく関わるほどに、大好きなものです。なので、演劇シーズンのフライヤーを眺め、「発光体」のSTORY紹介を見たその瞬間からとても楽しみにしておりました。

そうして、観劇した私でございますが、感想は・・・最高です!

もう、最高以外のなにものでもございません。
一度も観たことない方も当然いらっしゃると思うので、私的最高ポイントをネタバレを避けつつ箇条書きしたいと思います。

1)タイトルの入るタイミングが最高!物語が一気に急転するあの感覚、自分の観劇史上、最高にワクワクした瞬間でした。本当にありがとうございます。
2)指の先まで神経の行き届いたお二人(俳優名まで伏せちゃいます)の動きが怖くて、不可思議で、とっても最高!さすが!完璧!の大興奮でした。
3)物語冒頭で流れるオカルト番組、クオリティ高過ぎて最高!この映像で、「あ、もう絶対に面白いじゃないか、この作品」って確信を得ました。199×年の時代感が詰まっていて、それでいて大笑いできて、しっかり不穏な空気なのが凄い。
4)愛すべき南箕輪中学校のクラスメイトが全員最高!個人的な好みでいうと、久保章太さん。前説からその魅力にすっかり虜になりました。ネタバレになるので詳細は避けますが、あの瞬間とか、もう、ぐっときました。

総括すると、もう「発光体」という作品の頭の先から足の先まで最高なんです。
タイトルそのまま、この作品、めっちゃ光っています。
素晴らし過ぎる演者の皆さん、ブラックジョークが効いたセンス溢れる緻密な脚本、そして劇場内の熱気が、想像を超えた観劇体験へと我々を連れて行ってくれるのです。
中学生時代のあんなことやこんなことの黒歴史が頭によぎりつつも、爆笑して、怖がって、息を飲んで、希望があって。力一杯冒険できました。

終演後、パンフレットに劇中のとある現象が図解で解説されているとの紹介があり、物販の列に並んだ私(物販もかなりの列!終演後の熱気もすごかった!)。
我慢できずに帰りの地下鉄の中で読み、「ははーん、だいたい考えていたものと差異はないようだな」と得意げに頷く私は、さぞ怪しげな人物に見えたことでしょう。199X年頃、まさに中学生だったかつての自分にすっかり戻っておりました。あの頃、想像していた世紀末を体感できた!そんな感覚です。こんなに楽しませていただき、ありがとうございます。
演劇シーズン2020・冬、最高のスタートです!

悦永弘美(えつながひろみ)
1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。
作家 島崎町(しまざきまち)さん

<ネタバレなし版>

きっとろんどん『発光体』、かなり、そうとう面白い。ハッキリ言ってこんな文章読んでないで観にいった方がいいレベル。これはジャンルが持つ原初的感情・面白さがダダ漏れした怪作である。

序盤のストーリーはこうだ。オカルトブームに沸く世紀末、田舎の学校にやってくる美人でかわいい転校生。夏休みになり、彼女と親睦を深めるために、肝試しが行われる。そうして、もちろん、事件が起こる。町と、世界と、彼ら彼女らの人生が変わる、怪奇な事件が……。

物語のメインとなる、199X年の肝試しシーンはすばらしい。どこまでも暗闇が広がるような、不安な夜がBLOCHに出現する。懐中電灯の灯りが、心もとなく揺れ動く。トランシーバーの緑色がぼんやり、顔を照らして……どこからか虫の音色が聞こえだす。そのとき、僕はたしかに、あるはずのない草むらの、夜のにおいを嗅いだ。

ノスタルジー、青春、オカルト、学園ホラー&ミステリー、SF、恋愛、友情……すべてが、そこにあった。それらが一気に走りだし、面白さのうねりに巻き込まれると、あっという間に終演で、2時間弱がたっている。タイムスリップだ!

ジャンルを知り尽くした優等生が再解釈して構築した……というよりも、好きなものが詰まったおもちゃ箱をひっくり返して遊びはじめたような、いい意味での幼児性・純粋さに、スピルバーグを思い出した(褒めすぎ?)。

そこにガツガツ笑いが入ってきて、アクセントとなりテンポが生まれる。初日、客の呼吸も絶妙で、いい舞台を作る一員となっていた。

舞台装置もよかった。BLOCHの狭さを感じさせない、むしろ広さすら感じる空間。舞台デザインは高村由紀子、舞台製作は高橋詳幸(アクトコール)。

そして照明(秋野良太[祇王舎])。真夜中、忍びこんだ教室に灯った蛍光灯の明かりを再現できるなんて。(点滅がつづくシーンはつらくて下を見ていたが……)

脚本・演出よし、役者よし、スタッフもよし。なるほど演劇シーズンのパンフに「今北海道で最も話題の若手ユニットなのではないかと自負している」と自ら書くだけのことはあった。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。2017年に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
漫画家 田島ハルさん

「彼らは札幌で一番勢いのある若手です!」。2019年初秋、ゲキカン!の打ち合わせの際に、札幌演劇シーズン実行委員会Mさんから熱くプレゼンいただいたのが、演劇ユニット「きっとろんどん」だった。観劇に日の浅い私にも、彼らの名と噂はあらゆる方面から目や耳に届く。それだけ注目されているのだ。

その後、奇しくも彼らとラジオで共演する機会が訪れた。私がパーソナリティーを務める番組に、ゲストとして彼らが出演してくれたのである。世の中、何が起こるかわからない。

札幌にうっすら雪の積もった日。ラジオ局にやって来た彼らは、表情にまだあどけなさの残る、元気の良い青年だった。フリートークはお手のもの。ほどよい脱力と息の合ったコンビネーションでスタジオの中を明るく照らしてくれた。しかし、それはあくまで表向きの「好青年」の面を被った顔であり、舞台上での彼らは己の身体をもて余す程の炎に覆われた「怪物」であった。これが、舞台「発光体」を観た私の心を震え上がらせた要因だ。

オカルトブーム全盛の昭和の時代、とある田舎の中学校に可憐な転校生が来る。淡く色めき立つ教室から「発光体」の物語が始まる。UFO、超能力、スプーン曲げ…。怪現象を面白がり、のんきに未知の世界に憧れる幸せがあったのだと、現代を生きる者としては遠く感じる昭和の時代。そんなオカルトの胡散臭さを逆手に取り、コメディに昇華したブラックエンターテイメントである。

作・演出は井上悠介。昨年、同劇場BLOCHで公演された舞台「アクティブな犬」もそうで、彼の脚本は毒々しく、シュールな笑いを誘う。媚びない硬派さもあるが、観客を置いていかない優しさも兼ね備えた不思議な魅力のある世界を作り上げる。突然だが、ギャグ漫画家のうすた京介という奇才がいる(代表作は「セクシーコマンドー外伝すごいよマサルさん」「ピューと吹く!ジャガー」など)。作品を読んだ方には分かると思うが、訳がわからないのに笑いが止まらない。理屈など野暮。安心して笑いの海に身を投げ込める。そんな現象が「きっとろんどん」の舞台にも訪れる。作者の、荒ぶる情熱とそれを冷静に見る視線が絶妙な均衡を保っている。

言わずもがな、魅力的な舞台を作り上げるには魅力的な役者の力が不可欠だ。真っ直ぐな明るさを持ち、彼が出てくると不穏な空気を一掃してくれる縁の下の力持ちの山科連太郎。スタンダップコメディアンのような立ち振舞いと巧みな喋りで客席を笑いに包む久保章太。肉体の美しさを余すことなく魅せる身体能力と表現力、勝負に強いカードを沢山持っていそうなリンノスケ。それぞれのキャラクターは違えど、血肉の通った表現をみせてくれる。

それはラジオ収録の終盤だった。きっとろんどんの今後の展望は?という投げかけに対し、彼らの答えは「無い。」だった。皆、口を揃えて。これが未来への余白を意味するのであれば、新たな場所へと更に大きく飛躍するのか、己の身を焦がすほどの炎で未来など焼ききってしまうのか。それは、「発光体」を終えてから答えを出すのかもしれない。

田島ハル
札幌生まれ札幌在住。漫画家、イラストレーター、俳人、文筆家、ラジオパーソナリティー、小樽ふれあい観光大使。
2007年に集英社で漫画家デビュー。
著書に「モロッコ100丁目」(集英社)、「旦那様はオヤジ様」(日本文芸社)、「北海道の法則デラックス」(共著・泰文堂)他。
北海道新聞旭川面に連載「道北レジェンド!」、北広島市役所Webサイトに連載「キタヒロ☆エゾリス家族」など、北海道愛に溢れる作品多数。
2019年11月から朝日新聞夕刊道内版にて、北海道の"食"を紹介するイラストとコラム「田島ハルのくいしん簿」の週刊連載がスタート。
HBCラジオ「サブカルキック」(毎週土曜28:00放送)パーソナリティーとしても活躍中。
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