ゲキカン!


作家 島崎町(しまざきまち)さん

濃密な舞台だ。

いや、コロナ対策は万全なので心配なきよう。濃密なのは面白さ。『南総里見八犬伝』を原作に、面白さをギューッと凝縮して100分間みっちみちに詰めこんだエンターテイメント。

とにかく、構成のうまさに舌を巻く。チャンバラとチャンバラの間に人間模様を配し、そこに大量のクスグリを入れこんで、まるでコントを見てるような面白さ。気がつくと次のアクションシーンになっていて、それが終わるとまた面白シーンに。

隙あらば繰り出されるクスグリは、面白いものからそうとうくだらないものまで玉石混淆。だけどそれがいい。「くだらないな~」とあきれてしまうこともふくめての面白さ。おそらくほかでやられたらしらけてしまうけど、なぜかこの人たちは許せてしまう、笑ってしまう。

やはり根底に、面白いものを面白いだけ見せてやろうという意気込みがあるからだろう。江戸時代に庶民の娯楽として親しまれた『里見八犬伝』は、200年の時を経て、正統な継承者を見つけたのかもしれない。『ねお里見八犬伝』は面白さに面白さを重ね、怪奇、幻想、チャンバラ、笑い、あらゆるものを網羅した、現代の庶民の娯楽だ。

役者もよかった。特に悪役一味はオールスター。首領の玉梓役の伊藤しょうこは妖艶かつ緩急自在、その部下である長流三平(3ペェ団 新☆さっぽろ)の重鎮くせ者感、重堂元樹(演劇公社ライトマン)のキレのある動きと声量、由村鯨太(わんわんズ)のクネクネ、老女・船虫を演じたのしろゆう子(intro)は一番の好演、悪事を楽しんでいる。

悪役が映える物語はいい物語だ。この舞台もまた例外ではない。悪役一味だけでスピンオフが作れそうなくらい個性豊かで妙に親しみが湧いてくるから不思議だ。

八犬士側は屋木志都子のスピード感あるアクションが目を引いた。ほかにも触れたい役者はいるけれど、名前と役名が一致しないので書けないのが残念。今回のようにHPやパンフなどに役者名と役名を併記しない公演があるが、書いてほしい。観終わって劇場をあとにする観客に「~~さんって役者よかったよね」と会話させてほしい。別の機会に「この間すごかった人出てる、観に行こう」と思わせてほしい。

『ねお里見八犬伝』は8月14日、15日にオンライン配信をする。新たな試みだ。このエンタメ爆裂芝居を札幌のみならず、いろんな人が観るいい機会だ。役者たちの名前と役名が一致して、広まることを願いつつ。(2020年8月11日ゲネ鑑賞)

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。2017年に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
ライター・イラストレーター 悦永弘美さん

「南総里見八犬伝」といえば、誰もが知っている勧善懲悪、因果応報の物語です。

と言いながらも、私の里見八犬伝の知識のほとんどは角川映画。
千葉真一率いるJACメンバーのアクションの凄さ、ジョン・オバニオンによる主題歌の衝撃、熱量が伝わる特撮など、1980年代の角川映画の勢いみたいなものが詰まっている作品で、病みつきになる面白さがあって好きなのです。

なので劇団怪獣無法地帯「ねお里見八犬伝」は、とても楽しみにしていた作品。
フライヤーのビジュアルがまた素晴らしくて、期待感MAXの中、今回も本番前日となるゲネプロにお邪魔しました。
もちろん感染症対策も徹底しており、演者の皆さんは全員マウスシールドを着用。
安心して観劇ができる環境を今回も丁寧にしっかりと整えてくれています。

私にとって初めての劇団怪獣無法地帯。いやはやとんでもなく面白かったです。
「こうきたか!」とワクワクする大胆な脚色、そして驚きのラスト。
JAC顔負け!演劇ならではの迫力の殺陣、舞台のコントラストがグッと上がる衣装の素晴らしさ、美術、照明、音響、そしてものすごい働きを見せてくれる黒子による演出の数々。
笑って、胸が熱くなるエンターテインメントです。

善が悪を倒すというシンプルな構造の物語をより立体的に面白く彩るために不可欠なのは、やっぱり悪の魅力。
稀代の妖婦・玉梓を演じた伊藤しょうこさんの妖艶な佇まい、登場SEを背負って現れる時の格好良さが最高です。
対する8人の犬士の魅力は言わずもがなで、女性陣の身体能力に釘付け(毛野、すごく好きでした)。原作とは全く異なる立ち位置の蟇六の存在もまた、物語をよりドラマチックにしていました。

そして、この作品の大きな魅力の一つであろう、黒子大活躍の演出の数々。
浮き上がる八つの玉や、大蛇、爆発、最終決戦(これ、前のめりになって感激してしまいました)など、表現の可能性ってやつを見せつけられました。
扉の開閉音などを声で表現するのも好みです(頭の中で勝手にジョジョ的なフォントに変換して楽しんじゃいました)。

一切退屈にしない、あっという間の100分強。
私のようなほぼ角川映画の知識しかなくても、もちろん原作を全く知らなくても、
力いっぱい楽しめる作品であること間違いなしです。
本作は配信もあるとのこと。届け、全国に!

悦永弘美(えつながひろみ)
1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。
漫画家 田島ハルさん

劇団怪獣無法地帯の何がすごいって、まず劇団の名前がすごい。舞台の上で好き勝手暴れまくる怪獣のような劇団を想像し、わくわくする。
そして、舞台は「ねお里見八犬伝」。原作は滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」で、大長編読本106冊を100分の舞台に凝縮させてしまうというのだから、やはりただ者の劇団ではないのだろう。
繰り返し映像化もされている名作をどのようにアレンジするのか、劇団怪獣無法地帯って一体何者なのか、個人的に今回のレパートリー作品の中で一番注目していた。

物語は、神秘的な因縁により結び付いた8人の犬仕が徐々に集結し共に戦う、痛快、娯楽、冒険ファンタジー。

時代劇のはずなのだが、攻撃にビーム光線が出たり携帯電話を出したりと、なんでもありの世界。ギャグ漫画のように笑いを挟んでテンポ良く場面が進んでいくので、心の中でツッコミを入れながら楽しく観るのが正解だろう。原作を知らなくても全く問題なし!!

見所は、対決や変身のシーンで出てくるアナログな特殊効果だろう。機械や映像などで簡単に表現できてしまう事でも、大胆に人の手や声を使う事で観客の想像を膨らませる古典的な表現がお見事だった。ある意味B級的表現なのかもしれないが、堂々と貫く清さがかっこいい。最終決戦では黒子も大活躍だったので、注目。

また、女性陣の演じるキャラクターが、強くて美しく魅力的だった。特に、悪女の玉梓の女王様キャラは何故か憎めない。手下との掛け合いはまるで「ヤッターマン」のドロンジョ様のようで笑いを誘う。着物とドレスを融合した華やかな衣装も眼福。

人の手によって作られるあたたかさと力強さ、生の舞台の熱量を余すことなく浴びた、あっという間の100分だった。怪獣、恐るべし。

蛇足だが、私が漫画やイラストを描く際には、下描きから仕上げまで手作業の今時珍しいアナログ作業だ。デジタル作業に比べて効率は悪いのだが、安易に修正できない緊張感が好きでやっている。
「大胆にやっちまえよ!」と背を押されたような、そんな勇気をこの舞台から貰えた気がした。

田島ハル
札幌生まれ札幌在住。漫画家、イラストレーター、俳人、文筆家、小樽ふれあい観光大使。
2007年に集英社で漫画家デビュー。
著書に「モロッコ100丁目」(集英社)、「旦那様はオヤジ様」(日本文芸社)、「北海道の法則デラックス」(共著・泰文堂)他。
朝日新聞夕刊道内版に北海道の"食"をテーマにしたイラストとコラム「田島ハルのくいしん簿」連載中。毎週水曜日掲載。
角川「俳句」では俳画の連載も。
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