Table talk vol2 in sunpiaza theater

ゲスト

 8月6日(水)、演劇シーズンの特別プログラムとして、「TABLE TALK VOL.2 in Concarino(主催:演劇創造都市札幌プロジェクト)」が行われました。昼公演を終えたばかりの「イレブンナイン」代表、納谷真大さんを交え、演劇シーズンのこれからや、札幌の演劇に期待することなど、楽しいながらも熱いトークが交わされました。当日、会場に来られなかった人も必見です!

「イレブンナイン」、初の平日・昼公演を終えて

閔 鎭京(以下:閔)本日はお疲れさまでした。

納谷 真大(以下:納谷)ありがとうございました。暑いなかすみませんでした。

閔)会場も熱かったし、演劇も熱いし、納谷さんの演技も熱く、3つの熱さが揃ったということで、テーブルトークも盛り上がって行きたいと思います。

一同:よろしくお願いします。

閔)さっそくなんですが、今回は昼公演ということで、夜公演に慣れている方からすると、非常に難しい部分があると思いますが、いかがでしたか?

納谷)3時間前から会場に入り、アップをするんですが、人間の体のサイクルなんですかね? 体が起ききらないというか。こういうテンポが上がって行く芝居は難しいんですけども、特にコメディはお客さんのリアクションとのキャッチボールで成立するものなので、今日はお客さんに救われた気がしますね。 うーん、お昼公演に合わせるのは、我々のようなつくり方の芝居は難しかったですね。でも、それはプロフェッショナルになるうえでは乗り越えなくはいけない壁なので、とても勉強になりました。

荻谷 忠男(以下:荻谷)平日の昼間というのは初めてでしたか?

納谷)道内各地をツアーで回ることがあって、その際にはやったことはあると思うんですが、こういった常設の小屋(コンカリーニョ)で、平日の昼間にやるというのは初めてでした。

荻谷)平日の昼間なのに、すごくたくさんお客さんが入ってくれて驚いているんだけど、これから平日の昼間というのは、いいかもしれないなと。

納谷)ここ数年は土曜日の夜が、とにかくお客さんが入らないんですよ。土曜日の夜は一番入っていたくらいなんですが、ここ3年くらい全然入らなくなって、ちょっとそれはびっくりしてます。

磯田 憲一(以下:磯田)演劇シーズンが目指したものはロングラン公演なんです。アメリカのアシュランドでやっているような、あの感じを将来的に目指すのであれば、こういう昼公演も堂々とテンション上げて観ていただくっていう劇団が増えて行かないと実現できないわけで。

納谷)たしかに、そのとおりです。

磯田)今日は、観客の方いらっしゃるのかな?と思ったけど、こんなにたくさんいらっしゃって。たぶん、皆さん札幌の方ですよね。これからロングランをやるときに目指すのは、ここに札幌以外の方もいてくれる状況。40万人の来客があるアシュランドでは、泊まりで演劇を見に来るお客さんがいる。私がびっくりしたのは、食事をとってるときに店の主人に「○○のステージを見に行くんだ」と言ったら「それなら○時からなので時間があるからまだここでゆっくりしていきなよ」って言ってくれたり。そんなふうに街全体がイベントの主催者側にいるような感じなんです。

納谷)そうですよね。街全体がお芝居に対してひとつになってるようですね。

荻谷)僕らがぞろぞろ歩いても、違和感無く受け入れてくれている雰囲気が感じられましたね。レストランでオーダーするときに流暢に英語で話せなくても親切に対応してくれるんですよね。

磯田)北海道では富良野がそうなれる可能性があると思っています。

納谷)そうですね。ロングラン公演もやってますしね。

磯田)アシュランドには3つの劇場があるっていうが最大の条件ですよね。グリーンステージで役者さんが掃除をしている、それさえも演技であって、パフォーマンスなんだよね。それを見るだけでこれから演劇見るぞって気分が盛り上がるんですよ。

納谷)あっちの劇場で舞台に出てる人が、こっちの劇場では裏方・スタッフやってるとか、劇場間で役者たちが入れ替わってやってるって話は聞きました。

磯田)だから、札幌も小さな劇場が集まって、もうちょっと集中していればいいと思う。そう期待したいですね。

荻谷)もともと演劇シーズンが始まったとき、シアターZOOとコンカリーニョだけだったから、アシュランドを知ってしまうと札幌での劇場間の距離が遠く感じる。2カ所を続けて観る気になれなかったかも知れないけど、コンカリーニョ・三角山放送局・琴似駅くらいのエリアの中に劇場が集まっていると、気軽にもうひとつ観てみようかって気になりますよね。芝居の間にはね、食事もしてといいう。そういう環境をつくる必要があるのかなと思います。どうでしょう、役者さんもそういう環境の方がやりやすいんじゃないかな?

納谷)もちろん、そうですね。ただやっぱり、どういう環境でやるという前に、僕らは公演を打つときに劇場費との兼ね合いがあります。やりたい場所があっても費用を考えるとあきらめなければいけないこともあるわけで。それが、演劇シーズンに参加させてもらうと、そこを考えなくても済むのでとても助かるのですが、ただ、本当はね、自分たちの常設の劇場を持てると、そこで出来れば、やれることの幅ももっと広がると思っています。

演劇シーズンという「場」の成長と「やる側」の自覚

閔)納谷さんが札幌で演劇の活動を始めたきっかけと札幌の演劇界についてのお考えを教えてください。

納谷)富良野塾を出て東京で活動しようと思ったのですが、どうしても東京は暮らしに追われてしまうんですよね。で、僕がものづくりに没頭できる環境が東京ではなく札幌だったんですね。富良野で創作を続けているうちに、札幌でも通用するんじゃないかと、始めたんです。偉そうな気持ちではあるんですが。
やってみて感じるのは、札幌は、おもしろいものをつくるための自由度が高いということ。そして、札幌で演劇が盛り上がって行く可能性がまだまだあるということ。逆を言えば、今はおもしろくない劇団も多いということなんですよね(笑)。演劇シーズンというお膳立てをしていただいて、結局これが起爆剤となるかどうかは、つくっている中身のおもしろさにかかっているんですよね。僕は、それがまだ足りないなと思っているんです。自分のことも含めて。
演劇って観にくるのが面倒くさいわけですよ。それがおもしろくないと、次に観る気持ちがうせますよね。僕は演劇に関わっているので、おもしろくなくても観ますけど、ふつうはつまらなければ人が離れていきますよね。そうではなく、おもしろければ人が増えていく。我々は、演劇シーズンに選ばれるためにも、ふだんからおもしろいものをつくっていこうと思っています。だからこそ、もっとハードルを上げて、演劇シーズンでは、おもしろいものしかやっていないという信頼を築いていくといいと思っています。そんなことを考えつつ、札幌でこれからも頑張っていきたいと思っています。

荻谷)今、納谷さんがありがたいことを言ってくれたんだけど、本当に、やる側の自覚が大切だと私も思っているわけです。たとえ1時間でも、おもしろくなければただの苦痛になってしまう。退席する勇気がなくて、小さくあくびするくらいの抵抗しかできないんですけど。なるほど、納谷さんでもそういう思いで観ていることがあるんですね(笑)。

納谷)僕は、途中で帰りたくなることも多々あります。だから、僕らの芝居は、つまらなかったら帰ってもらってもいい。お金を返せと言われれば返す。それくらいの覚悟でやらねば、いくら環境が整っても甘やかされるだけですよね。演劇って(壇上の4人を指して)この4人でもできるんですよね。やろうと思えば。やる側にはやりやすい。だけど、観る側には条件が悪いという、このことを僕たちは心に留めて、ものをつくらねばと思っています。ただ、我々の劇団も演劇だけで生活はできていないんですよね。今後の夢として、昼も夜も演劇に従事できる環境をつくるということを考えています。現実はまだほど遠いのですが。

荻谷)場をつくるお手伝いはできるけど、最終的には、プロになる意識を持っているかどうか。それが大事だと思うんですよね。

納谷)それは強くあると思います。僕は札幌に来て、磯田さんのお力添えで、4年間、「舞台塾」で教えるという機会をいただいて、自分の成長にはなったんだけど、札幌の発展につなげられなかったという反省があります。昔はもっと生意気だったんですが、今はなんとかして、札幌の演劇が良くならないかと常に考えているんですが、おもしろいものをつくるということは、非常に難しいんですよね。それにはもっともっと考えなければ。そこの問題を話すと3日くらいかかるんで、今回は差し控えますが(笑)。

おもしろいものは、おもしろい。その相互的な発展に期待

磯田)私が演劇シーズンに期待しているのは、観客の方々が自分のスケジュールに合わせて演劇を観てもらう場として育ってほしいんですよね。それができるのが札幌だと思っています。現状の演劇シーズンも「単発」なんですよね。今日、初めて観てつまらなければ、ほかの演劇を観たいと思わないですよね。だからこそ、ロングラン公演を続けて、この演劇シーズンが、役者や劇団同士で刺激し合う場になってほしいと願うわけです。

納谷)僕らは今回参加していますけど、観客の皆さんが「なぜこの作品が演劇シーズンにエントリーされているんだ」と疑問を持つならば、二度と参加できなくてもいいう覚悟を持っているんです。つまらないものをつまらないと観客の方は言う権利があるし、そういうなかで我々は鍛えられていかないとダメだと思ってます。

磯田)私は、演劇を初めて観た人がわくわくするような芝居をつくってほしいと願っています。今度は家族を連れて来ようかとか。そうしてクチコミが広がって、演劇の街として札幌が活性化していければと思うんですよね。

荻谷)演劇の発展には全体が向上しなければいけないと納谷さんは強く思っている人ですが、やはり演劇シーズンの選考人にもその気持ちを期待しますか?

納谷)そうですね。なので、うーんと……、これは言うべきかどうか迷うんですが、おもしろい作品がなかったら、演劇シーズンは、ひとつの劇団が1カ月まるまるやってもいいと思うんです。おもしろくない作品は、おもしろい作品をやっている人に迷惑をかけると思うんです。もちろん、僕らの作品がおもしろくないという評価を受けたら、しばらくオモテに出られなくてもいい。でもそれをやると、札幌の演劇が滅びる可能性もあるわけですよ。だから、よく言ってるんですが、ランクをつけるといいと思うんです。たとえば、プロフェッショナル、セミプロ、アマチュアとか。学生がつまらない芝居をやっていても、これから何かになっていくために必要だと受けとめて観ることができます。でも、すべてが十把一絡げにチラシに連なられることは、僕は営業妨害だと思っています。ただ、それは何年も前から思っていたんですけど、今もあんまり状況が変わらないので、そろそろ僕自身が若い人に道を譲らないといけないのかと。僕みたいな人間も若手にとっては邪魔だと思うんですよね。でもそういうことを含めて、目の前にあることは、ひとつひとつの芝居を全力でやるだけなんですよね。それがこの後の今夜の芝居なんですけど(笑)。

閔)はい。そうなんですよね。実は、夜の公演を控えていまして、そろそろ終了しないと、納谷さんが倒れてしまうんじゃないかと心配もあり(笑)、ひとりひとりの質問で最後にしたいと思います。まず、これからステージを控えている納谷さんには、観客の皆さんにメッセージをお願いします。

納谷)おもしろいものをおもしろいと言える。つまらないものはつまらないと言える環境をつくりたいですね。もちろん、僕らは、おもしろいものをつくるために命を削ってでもやっていく。今こうして集まってくれた方を失わないためにも全力でやりますので、皆さんにもシビアに判断していってほしいと思います。

閔)磯田さんは、北海道における演劇の未来についてお聞かせください。

磯田)ロングラン公演には、役者が成長する過程を見る楽しみがあります。札幌の観光のおもてなしとして、演劇という選択が定着してもいいと思うんです。アシュランドまでとはいかないにしてもですね。演劇が札幌の魅力のひとつになるために、切磋琢磨しながら演劇シーズンも役者も成長し、結果として札幌が演劇の街となるように目指して欲しいと思います。

閔)では最後に荻谷さん、演劇シーズンの方向性についてどうお考えですか?

荻谷)いろんなジャンルの芝居を選考しながらも、新進のつくり手が参加できる場でありたいと思っています。その前にはまず、この数年の間、演劇人が「魅せる」芝居を提供してくれる場として確立してほしい。お客さんには、クチコミを通じて「おもしろかった」という声をどんどん発信してくれたら何より。常に、演劇シーズンには、何が必要なのかを考えながら歩んでいきたいと思います。今日はありがとうございました。

【一同】本日は、ありがとうございました。

 アメリカはオレゴン州の最南端に位置する町・アシュランドは、人口2万人の小さな町ですが、毎年「オレゴン シェイクスピア フェスティバル」という演劇の祭典が2月から約9か月間もの長きに渡り開催され、40万人の観客が集まります。
 アシュランドではこの演劇の祭典を中心にまちづくりが進められ、通りには観客をターゲットとしたレストランやホテル、さまざまなショップが立ち並びます。
 また、この祭典を主催するNPO法人は3つの劇場を持ち、俳優約70人を含めた総勢600人もの雇用を生み出しています。
 まさに演劇が町の基幹産業として成り立ち、雇用を生み、町の財政を支えています。
 札幌演劇シーズンが目指す理想のひとつが、このアシュランドという小さな町で続く「オレゴン シェイクスピア フェスティバル」なのです。
 今回のテーブルトークを主催した演劇創造都市札幌プロジェクトでは、2013年の9月〜10月にかけて「オレゴン シェイクスピア フェスティバル」を視察し、本場の“演劇シーズン”を体験しました。

 
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