ゲキカン!


ライター・イラストレーター 悦永弘美(えつながひろみ)さん

いやぁ、面白かった!
劇場から一歩外に出ると、厳しい寒さと豪雪が一気に現実へと引き戻したのだけれど、かえってそれが、先ほどまでの体験が心底夢のようだったと実感できて、心は軽く、踏み出した一歩は観劇前よりもうんと力強くなっているような気がした。

「白浪っ!」は、歌舞伎の「白浪五人男」などをモチーフにした物語。幕府体制のまま近代化を迎えたもう一つの平成日本が舞台……と、これだけで期待がムクムクと膨らむ好みのシチュエーション。そこに義賊が五人ずらりと並べば、そりゃぁもう最高以外何ものでもないでしょう。戦隊モノ然り、石井隆監督のGONIN然り、個性も背景もバラバラな5人組が、志や目標を一つに徒党を組む姿にグッとくるのは、古くから日本人のDNAに刻み込まれているものなのだ!いわば白浪五人男は、日本の五人組文化の元祖である!

……と、期待値MAXでの初観劇。感想は「いやぁ!面白かった!」×1億です。
1時間50分、どこをどう切り取っても見事に面白い。ツイッター、LINE、インスタ、仮想通貨と現代社会のキーワードが飛び交う歌舞伎という、この荒唐無稽さもとんでもなく面白い。
そのユニセックスな佇まいにすっかりファンになってしまった青木玖璃子さんの赤星十三郎、堂々たる風格にぐうの音も出ない小林エレキさんの日本駄右衛門、葛藤・色気・影を演じきった深浦佑太さんの弁天小僧菊之助、荒っぽさと男気、番傘を持って立つあのシルエットに心底惚れた櫻井保一さんの南郷力丸、そして残業に疲れ、家族を背負う姿に日々の自分を投影せずにいられない、能登英輔さんの忠信利平。こんなにも個性が光り格好が良い愛すべき白浪五人男が、北の大地にもいるのです!と、大声で叫ばせてくれる役者陣の力にひたすら感動。
夢と現実を行き来して、人と人が入れ替わる、巧みな手法とテンポの良さ。見得を切るたびに拍手と掛け声が湧き上がる客席の高い温度。後半の立ち回りの連続にはまるでフェス会場にいるかのような興奮を覚えたほど。エンターテインメントのあらゆる魅力が詰め込まれた、まさに渾身の面白さだ。
とても良い夢を見させて頂きました。また今日から自分自身を生きよう。豪雪の中でそんなことを思わせてくれる、桜が舞うこの舞台。厳しい冬にも負けず、スッキリ痛快な目覚めの良い朝を迎えたい人は是非とも観劇を。

悦永弘美(えつながひろみ)
1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。
作家 島崎町(しまざきまち)さん

サラリーマンは歌舞伎義賊の夢を見るか?

舞台は夢、幻のごとく立ちあがり、消えていく。たとえば人が舞台上、自分はサラリーマンだと言えばサラリーマンに、義賊だと言えば義賊になる。場所は日本と言えばそうなって、江戸時代が400年つづいてる現代なのだと言えばあっという間、歴史改変ファンタジー、大エンターテイメントのはじまりだ。

yhs 40th play『白浪っ!』。舞台とはなにか、その疑問に「エンターテイメント!」と答える。楽しく、面白く、笑える110分。「こういうのがやりたかった!」という制作者の夢と、「こういうのが観たかった!」という観客の夢が合致した幸せな作品だ。

ときは現代、徳川の世がいまもつづき、江戸の文化と現代の科学が融合した、いわばネオ平成。義賊「白浪五人男」は数年前の大捕物で「弁天小僧」(深浦佑太[プラズマ・ダイバーズ])を失い、一同は散り散りになっていた。「力丸」(櫻井保一)はデパートの紳士服売り場の主任として世を忍んでいたが、訪ねてくる意外な人物が……。携帯、SNS、仮想通貨、江戸の文化に現代ツールが飛び交って、派手かつ華やかに進んでいく物語だ。

いろんな面白さのある舞台だろう。だけどなんと言っても白眉は、パラパラと入れ替わる現実と夢の構造だ。力丸と同じく世を忍び、しがないサラリーマンとなっている「利平」(能登英輔)は「白浪五人男」離散の原因となった大捕物の夢を見ている。その夢が、物語の回想の役割を果たしているのだけど、あるときなど、夢の主体(夢を見ている人物)が利平から別の人間に途中で入れ替わったりして、「おい、いまなんかすごいことやったぞ!」と前のめりになってしまった。スリリングな劇構造だ。

入れ替わるのは現実と夢だけじゃない。アナログな「変わり身の術」が何度も繰り返されていくうちに、人物と人物の境目や、敵や味方の境目があいまいになっていく。また、男が女役をしたり、女が男役をしたり、あるいは内面的に男女の境目があいまいな人物が登場したり、性別の境も溶けていく(そもそも弁天小僧は女装を得意とした盗賊だ)。さらに利平の“にぎやかな”子どもたちのシーン。幼い子どものはずなのに大人のような態度、つまり年齢の境目も壊していく。

いっけん面白いだけのエンターテイメント作品と見せかけておいて(それはそれで全然問題ないけど)、実のところその裏には、「野心的」という別の顔がひそんでる。yhsの変わり身の術に、観客もいっぱい喰わされたというわけだ。

本作はいい役者の多い贅沢な芝居。役者を見るだけで堪能できる。櫻井保一は主役を張れる力量、声がいい。白浪五人男のリーダー・小林エレキは貫禄。欲を言えば彼がなぜ、数年ののちまだ義賊にこだわるのか、そこを描いてほしかった(脚本的に)。脇を固める氏次啓、重堂元樹(演劇公社ライトマン)は重要なクサビで、物語をぎゅっと締めた。城島イケル(劇団にれ)はまるで幻のような役(ここも生者と死者の境はあいまいだ)。棚田満(劇団怪獣無法地帯)の呑気な将軍は一瞬殺気を見せる、そのメリハリ。青木玖璃子はいかにも物語、いかにもお芝居というデフォルメのある役で生きる。テツヤ(月光グリーン)の長躯はyhsの男性役者にない特色でいい配役。主題歌はさすがにカッコ良く場面も映えた(もっと音楽劇的でもいいと思ったくらいだ)。深浦佑太(プラズマ・ダイバーズ)は色気のある弁天小僧。ほかの人物と違う、あのナチュラルなセリフ回し!(それだけとってみてもやはり油断のできない劇だとわかる)

しかし本作はやはり能登英輔だろう。徹底的に小市民を演じ、いっさいのケレンを排除された上での存在感。あえて見せない脚本・演出も見事だった。僕は照明を浴びる一台のノートパソコンが、だれよりも見得を切っているように見えた。

サラリーマンは歌舞伎義賊の夢を見るか?

見たんだ。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。昨年6月に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
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