ゲキカン!


ドラマラヴァ― しのぴーさん


 痛快娯楽大傑作!今、札幌演劇シーンで一番力が充実しているのは南参ではないだろうか。本作は札幌劇場際TGR2017に劇団創立20周年記念(札幌で劇団が20年続くことがまずすごい!)公演として参加、yhsとして初めてとなる大賞を得るとともに、看板プレーヤーである櫻井保一がこの年に創設された俳優賞を大賞審査員満場一致で受賞するといううれしいできごともあった。原作は河竹黙阿弥のいわゆる白浪ものだが、劇作家・演出家としての南参の筆力を感じる物語の面白さ、人物の魅力、外連味たっぷりな劇の構成など、札幌の演劇シーンを代表するエンターテインメント作に仕上げて魅せた。
 黒と赤というデザイン上の王道を大胆に切り出した舞台(美術は高村由紀子)を下手から上手まで所狭しとばかりクールなオリジナル音楽に乗って役者陣が駆け回る冒頭のシークエンスが力強く、のっけから引き込まれる。このシンプルな美術は、演劇ならではの「見立て」として劇中で巧み使用され、タブローとしても美しい。さて、冒頭のシークエンスで、追っ手に追い詰められた弁天小僧菊之助(深浦佑太)が「もはやこれまで」的に身を投げ最期を遂げるのだが、これを同じ盗賊仲間で後に足抜けする忠信利平(能登英輔)が双眼鏡越しに目撃していたというヌーベルバーグ顔負けのテイストが作家の才気を感じさせる。当たり前だが、これは大伏線になっていて見事に回収される。華やかに映像タイトルが流れ、時制をセットバックして物語は本流へと流れ込む。そこは江戸幕府が明治維新以降も続いているというユニークな設定の世界だ。
 個性的な役者陣も、大向うを歌舞いて見せるスリリングな物語を実によくうたっている。頭領、日本駄右衛門のご存知小林エレキ、赤星十三郎を凛々しく演じた青木玖璃子、徳川家守は札幌演劇界の怪優の一人、棚田満、三人キティの長麻美、最上怜香、そして氏次啓。曽我夕子演じる千寿と深浦が紡ぐこの劇の裏導線も切なかった。プラズマ・ダイバーズの深浦は、客演で引っ張りだこの売れっ子だが、タッパもあり、声もよく通っていて、弁天小僧は実に格好良かった。さらに、その上をいくのが、実は南参と同級でyhs創立メンバーだったという、月光グリーンのテツヤ。テツヤの異形さも異彩を放っていた。個人的に好きだったのでは、一味を追い続ける玉島逸当の重堂元樹の達者な殺陣だ。特に擬刀の使いこなしようは半端じゃない。もうずいぶんと前になるが、TEAM NACSの皆さんと一緒に開局35周年記念の演劇公演「蟹頭十郎太」をつくった。結構な本格時代劇で東京から殺陣師の人に来てもらって、殺陣稽古の日をかなり設けた。擬刀といってもほぼ真剣と同じ長さがあるので、稽古をするには結構な高さが必要になる。つまり、普通の会議室程度の稽古場で刀を振り上げると天井にひっかかるのだ。戦国時代はこれで戦っていたのだから、斬られたらひとたまりもないだろうと実感したものだ。刀の扱いに熟練しているとそれだけで殺気が出る。見事だった。
 「白浪っ!」は、これは僕の想像の域を出ないけれど、yhsのプレーヤーの「世代交代」劇としての意味合いもあったのではないだろうか。yhsの男優といえば小林、能登を思い浮かべる人も多いだろう。櫻井は、安田顕のようなカメレオン俳優だが、どちらかというとギークな役柄が多かったように思う。期待に応えた櫻井は新境地を開いたようにも感じた。これだけ大仕掛けなエンターテインメント劇は、そうそうつくれるものではない。これからも個性派・実力派であるyhsの代表作として磨いていってほしい。

ドラマラヴァ― しのぴー
四宮康雅、HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞ではドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。
ライター・イラストレーター 悦永弘美(えつながひろみ)さん

いやぁ、面白かった!
劇場から一歩外に出ると、厳しい寒さと豪雪が一気に現実へと引き戻したのだけれど、かえってそれが、先ほどまでの体験が心底夢のようだったと実感できて、心は軽く、踏み出した一歩は観劇前よりもうんと力強くなっているような気がした。

「白浪っ!」は、歌舞伎の「白浪五人男」などをモチーフにした物語。幕府体制のまま近代化を迎えたもう一つの平成日本が舞台……と、これだけで期待がムクムクと膨らむ好みのシチュエーション。そこに義賊が五人ずらりと並べば、そりゃぁもう最高以外何ものでもないでしょう。戦隊モノ然り、石井隆監督のGONIN然り、個性も背景もバラバラな5人組が、志や目標を一つに徒党を組む姿にグッとくるのは、古くから日本人のDNAに刻み込まれているものなのだ!いわば白浪五人男は、日本の五人組文化の元祖である!

……と、期待値MAXでの初観劇。感想は「いやぁ!面白かった!」×1億です。
1時間50分、どこをどう切り取っても見事に面白い。ツイッター、LINE、インスタ、仮想通貨と現代社会のキーワードが飛び交う歌舞伎という、この荒唐無稽さもとんでもなく面白い。
そのユニセックスな佇まいにすっかりファンになってしまった青木玖璃子さんの赤星十三郎、堂々たる風格にぐうの音も出ない小林エレキさんの日本駄右衛門、葛藤・色気・影を演じきった深浦佑太さんの弁天小僧菊之助、荒っぽさと男気、番傘を持って立つあのシルエットに心底惚れた櫻井保一さんの南郷力丸、そして残業に疲れ、家族を背負う姿に日々の自分を投影せずにいられない、能登英輔さんの忠信利平。こんなにも個性が光り格好が良い愛すべき白浪五人男が、北の大地にもいるのです!と、大声で叫ばせてくれる役者陣の力にひたすら感動。
夢と現実を行き来して、人と人が入れ替わる、巧みな手法とテンポの良さ。見得を切るたびに拍手と掛け声が湧き上がる客席の高い温度。後半の立ち回りの連続にはまるでフェス会場にいるかのような興奮を覚えたほど。エンターテインメントのあらゆる魅力が詰め込まれた、まさに渾身の面白さだ。
とても良い夢を見させて頂きました。また今日から自分自身を生きよう。豪雪の中でそんなことを思わせてくれる、桜が舞うこの舞台。厳しい冬にも負けず、スッキリ痛快な目覚めの良い朝を迎えたい人は是非とも観劇を。

悦永弘美(えつながひろみ)
1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。
作家 島崎町(しまざきまち)さん

サラリーマンは歌舞伎義賊の夢を見るか?

舞台は夢、幻のごとく立ちあがり、消えていく。たとえば人が舞台上、自分はサラリーマンだと言えばサラリーマンに、義賊だと言えば義賊になる。場所は日本と言えばそうなって、江戸時代が400年つづいてる現代なのだと言えばあっという間、歴史改変ファンタジー、大エンターテイメントのはじまりだ。

yhs 40th play『白浪っ!』。舞台とはなにか、その疑問に「エンターテイメント!」と答える。楽しく、面白く、笑える110分。「こういうのがやりたかった!」という制作者の夢と、「こういうのが観たかった!」という観客の夢が合致した幸せな作品だ。

ときは現代、徳川の世がいまもつづき、江戸の文化と現代の科学が融合した、いわばネオ平成。義賊「白浪五人男」は数年前の大捕物で「弁天小僧」(深浦佑太[プラズマ・ダイバーズ])を失い、一同は散り散りになっていた。「力丸」(櫻井保一)はデパートの紳士服売り場の主任として世を忍んでいたが、訪ねてくる意外な人物が……。携帯、SNS、仮想通貨、江戸の文化に現代ツールが飛び交って、派手かつ華やかに進んでいく物語だ。

いろんな面白さのある舞台だろう。だけどなんと言っても白眉は、パラパラと入れ替わる現実と夢の構造だ。力丸と同じく世を忍び、しがないサラリーマンとなっている「利平」(能登英輔)は「白浪五人男」離散の原因となった大捕物の夢を見ている。その夢が、物語の回想の役割を果たしているのだけど、あるときなど、夢の主体(夢を見ている人物)が利平から別の人間に途中で入れ替わったりして、「おい、いまなんかすごいことやったぞ!」と前のめりになってしまった。スリリングな劇構造だ。

入れ替わるのは現実と夢だけじゃない。アナログな「変わり身の術」が何度も繰り返されていくうちに、人物と人物の境目や、敵や味方の境目があいまいになっていく。また、男が女役をしたり、女が男役をしたり、あるいは内面的に男女の境目があいまいな人物が登場したり、性別の境も溶けていく(そもそも弁天小僧は女装を得意とした盗賊だ)。さらに利平の“にぎやかな”子どもたちのシーン。幼い子どものはずなのに大人のような態度、つまり年齢の境目も壊していく。

いっけん面白いだけのエンターテイメント作品と見せかけておいて(それはそれで全然問題ないけど)、実のところその裏には、「野心的」という別の顔がひそんでる。yhsの変わり身の術に、観客もいっぱい喰わされたというわけだ。

本作はいい役者の多い贅沢な芝居。役者を見るだけで堪能できる。櫻井保一は主役を張れる力量、声がいい。白浪五人男のリーダー・小林エレキは貫禄。欲を言えば彼がなぜ、数年ののちまだ義賊にこだわるのか、そこを描いてほしかった(脚本的に)。脇を固める氏次啓、重堂元樹(演劇公社ライトマン)は重要なクサビで、物語をぎゅっと締めた。城島イケル(劇団にれ)はまるで幻のような役(ここも生者と死者の境はあいまいだ)。棚田満(劇団怪獣無法地帯)の呑気な将軍は一瞬殺気を見せる、そのメリハリ。青木玖璃子はいかにも物語、いかにもお芝居というデフォルメのある役で生きる。テツヤ(月光グリーン)の長躯はyhsの男性役者にない特色でいい配役。主題歌はさすがにカッコ良く場面も映えた(もっと音楽劇的でもいいと思ったくらいだ)。深浦佑太(プラズマ・ダイバーズ)は色気のある弁天小僧。ほかの人物と違う、あのナチュラルなセリフ回し!(それだけとってみてもやはり油断のできない劇だとわかる)

しかし本作はやはり能登英輔だろう。徹底的に小市民を演じ、いっさいのケレンを排除された上での存在感。あえて見せない脚本・演出も見事だった。僕は照明を浴びる一台のノートパソコンが、だれよりも見得を切っているように見えた。

サラリーマンは歌舞伎義賊の夢を見るか?

見たんだ。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。昨年6月に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
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