ゲキカン!


ドラマラヴァ― しのぴーさん


 僕は、トランク機械シアターを主宰する立川佳吾という作家が多分好きだ。ホームにしている「こぐま座」で上演期間中、劇場の前の公園にねじまきロボットαだったかどうかはさだかではないけれど、子どもたちや家族にまっすぐ「呼び込み」をしている立川の姿を何度か目にしている。今回、昨年10月に鳴り物入りでオープンした札幌文化芸術劇場(hitaru)のクリエイティブスタジオでの上演となったが、その姿勢は変わることはなかった。ちょうど、さっぽろ雪まつりと重なっていて1Fのクリエイティブホールでは、初音ミクのイベントが行われていて、人だかりがすごかった。そこへ、ねじまきロボットαを持った立川が向かってエスカレータを降りていく姿には、正直感動した。人としてとても真っ直ぐなのだろう、作家としての感受性の豊かさは、子ども目線ながら、大人の心も動かす本づくりの丁寧さ、劇世界の確からしさに反映されている。
 役者が人形と一緒に出演して、自らも演じるというスタイルは、もしかしたらストレートプレイよりも役者自身の人間力が舞台で裸になるのかもしれない。「ねじまきロボットα」シリーズはこれまで30作近くつくられているそうだけれど、人形劇というジャンルを超える深さを持っていると改めて感じた。とにかく人形たちが素晴らしい(人形デザインは、クマノーノ・ラボ、人形製作は中川有子)。悪いものがやっつけられてハッピーという世界を善と悪とに単純に分けない作劇にも今日的なメッセージがあるだろう。スーツ大臣にしても、決して消えてしまったりはしない。アルファー(縣梨恵)は嘆くのだ。「お友だちになれなかった」と。「アルファーの夢は世界中のみんなとお友だちになること」という大テーゼは、演劇だけが掲げられるヒューマニティという松明のようなものだと僕は思う。トランプ政権誕生以降、「分断と対立の時代」とよくいわれるが、分断と対立は一時の為政者の思いつきで生まれるのではなく、僕たちの心の中にずっとあったダークサイドのなせる業である。それを知っているから、イノセントなものを掘り下げるトランク機械シアターの劇世界には普遍性があると感じるのだ。
 今回の公演はクリエイティブシアターで良かったと思う。「こぐま座」が札幌の児童文化に果たしてきた社会財としての役割は認識しているけれど、やはり、地の利がいい。親子とも集まりやすい。アフターシアターも充実している。なにより小屋が明るい。中ホールをまったく設けなかった札幌文化芸術劇場のコンセプトには正直困惑する。結局クラシック専用ホールのkitaraの音響設計には勝てないだろうし、オペラやバレエありきの大母艦主義には疑問を感じざるを得ない。中規模ホールを望む地元のアーティスト、表現者のニーズは円卓会議で本当に汲まれたのだろうかと、思うところは一杯ある。でも、今回のトランク機械シアターの公演を観て、街のど真ん中で演劇を観る祝祭性を改めて感じたし、芝居のサイズともとてもマッチしていた。こけらの札幌座「ゴドーを待ちながら」でも感じたことなのだけれど、照明がとてもきれいだ。座席の前には子どもたちのための「ふれあいスペース」もつくられていた。感動に浸る(hitaru)、という愛称がついた札幌文化芸術劇場を市民のためのにぎわいのひろばにするためにも、トランク機械シアターには継続してクリエイティブシアターでの公演に取り組んでほしいと強く思う。

ドラマラヴァ― しのぴー
四宮康雅、HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞ではドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。
作家 島崎町(しまざきまち)さん

これは、あなたこそ観るべき作品だ。

「子ども向けの人形劇か。自分には関係ないな」そう思ったあなたのことだ。トランク機械シアター『ねじまきロボットα ~ともだちのこえ~』。いま札幌で観られる最良のファンタジー、大人のための寓話劇、観る前と観たあとでは、少しだけ、人生が変わる。

もちろん劇場には子どももいる。最前列に座って、前のめりになって舞台を観てるだろう。だから大人は、子どもたち込みで舞台を観ることになる。

ワクワク心躍らせる子どもたちを見て、自分も昔はこうだったなあと、過ぎ去りし遠い過去を思い出すのもいいだろう。だけど……

物語が進むにつれて、しだいに大人たちは気づいていく。いま観ているのは寓話、描かれているのは現代の縮図、社会が抱える問題がデフォルメされてる世界なんだと。

自分たちとは違う、そんな理由で迫害しようとするものがいる。権力者だ。そいつは金をあやつり仲間を増やし、他者を排除していく。おぞましい世界だ。

町の名は、「サツホロ」。ゾッとする。

客席の前方には、食い入るように舞台を見つめる子どもたちがいる。この子たちはこれから、他者への憎しみにあふれた、排他的な世界を生きなければいけないのだろうか。

舞台では、ねじまきロボットのアルファーが、友達のために力をふりしぼり、排外主義の権力者に立ち向かっている。子どもたちはアルファーを応援する。純粋だ。物語に没頭している。

いっぽう大人たちは? 突きつけられた現実に戸惑うだろう。現実世界で僕たちは、子どもにもわかる善悪の区別を、見て見ぬふりして放置してきたんだ。

でもだからこそ、アルファーを応援しよう。舞台の上で力を失わないように、優しいあの子を助けられるように、そして現実の世界を少しだけ、変えるために。

これは子どもたち“だけ”の作品じゃない。この世界をまだまだ楽しく生きていこうとする、未来ある大人たちのための舞台でもある。

……なんて書くと小難しい作品だと思うかもしれない。心配ご無用。かわいく愉快な人形&出演者が、ところせましと舞台を駆けまわり、はじめて行った土地で新しい友達と出会い、冒険する、そんなお話だ。

主人公・アルファー(縣梨恵)は明るく無垢な存在。動力である頭のネジを自分ではまわせないので、だれかを頼らないと生きていけない。だからこそアルファーは、ひとを100パーセント信じて生きている。

アルファーの友達・つぎはぎは、ブリキのロボットで歩くのがゆっくり。それがおかしくて、子どもたちは大喜び。すべり知らず。

パペポ(石鉢もも子[ウェイビジョン]、Wキャストでかわむらはるな)はパステル王国のアイドル。パステル語は日本語だと別の意味にもなって、笑いを誘う。意外と下ネタ?

パペポの応援隊長を自認するのがアラビック(寺元彩乃[capsule])。陰ながら応援する姿がかわいい。ふるえも最高(ぜひ観てほしい)。

パペポのマネージャーはマネマネ(高井ヒロシ。三島祐樹とのWキャスト)。当初、子ども向けとして作られた本作に、マネージャーという役があるのもすごく現代的。

権力者のスーツ大臣(立川佳吾。ほかキャストに小松悟、Hide-c.[C-Junction])は、なんか見たことあるような気もするけど……。彼は子どものときに「アルファー」みたいな劇をもっと観てればよかったのにね(いまからでも遅くない?)。

お掃除係のドラパ(原田充子)はスーツ大臣の手下になるが、主義主張のなさというか、信念の底が抜けてる感じが、かえってフットワークを生み出して軽やか。

ドラパはじめサツホロに住むキャラは、クレヨンで塗り重ねたような彩色で、造形ふくめ美術としてもとてもいい(もちろんアルファーたちレギュラーメンバーもいい!)。三島祐樹@ラバの音楽も心に残るし、すぐれた舞台というのはやはりトータルとしていいんだなあと実感した。

アルファーのシリーズは30作を越えているらしい(すごい!)。1本くらい完全に大人向けを打ち出して作っても、人気が出そうな気がする(僕は観てみたい)。

島崎町(しまざきまち)
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。昨年6月に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。
ライター・イラストレーター 悦永弘美(えつながひろみ)さん

歴史的大寒波の夜。個人的に初めてのhitaruクリエイティブスタジオであり、初めてのトランク機械シアター。期待に胸を膨らませつつ、寒さから逃げるように創世スクエアに滑りこむと、1階のエスカレーター付近で可愛らしい人形を操っている人たちが。丁寧に会場を案内していて、あぁすでに始まっているんだなぁと嬉しい気持ちになる。
開演15分前に席に着いたのだが、会場の温め方も逸品!子どもたちはもちろんのこと、お一人様の大人も一緒に「アルファーのねじねじダンス」。思わず笑みがこぼれ、照れ臭さも消えていくのが不思議。あぁ、息子連れてくればよかったなぁ・・・と、楽しそうにダンスする子どもたちを見て、ちょっぴり後悔もした。
世界中のみんなと友達になる夢を持ち、旅に出ていたα(アルファー)がたどり着いたのは「さつほろ」。そこで、パステル語を話すアイドル・パペポに出会い、言葉が通じなくても二人はとても仲良くなる。さつほろには、パペポと同じ言葉を話す観光客が大勢来ていて、大賑わい。しかし「知らない言葉を話すのがなんだかいやだ」と思うスーツ大臣が現れて、権力を武器に動き出す……。
排外主義のスーツ大臣、言われなき差別を受けるパステル王国の人々、言葉の弾圧、密告による投獄、パぺポのステージに貼られた「Liar」や「HATE」のステッカーの数々。さつほろで繰り広げられるのは、想像以上に風刺の効いた物語だ。子どもはスーツ大臣を「なんて意地悪な人なんだ」と思うだろうし、大人たちの中には自分の胸に手を当て、思わずドキリとする人もいるだろう。
αを取り巻く仲間の心の移り変わりもグッとくる。自身の目で確かめず伝聞だけを信じてしまったり、長いものに巻かれてしまったり。劇中のアラビックのセリフ「君の名前も呼ぶことができないんだ」には、胸が締め付けられたし、スーツ大臣に対して「ともだちになれなかった」と悲しむαの言葉には、単なる勧善懲悪ではない物語の深みをしみじみと感じた。他者にねじを巻いてもらうことで動けるというαの設定もまた、感慨深い。強いメッセージ性を持ちながらも、終始温かな世界観で大人も子どもも楽しませてくれる、隙のない優れた脚本に心底脱帽だ。
余談だが、αのかわいさにすっかり虜になってしまった私。息子に見せようと終演後に「ねじまきロボット〜バクバク山のオバケ〜」のDVDを購入したのだが、こちらもまた秀逸な物語。オススメです!

悦永弘美(えつながひろみ)
1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。
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