ゲキカン!


図書情報専門員 本間 恵さん

満席の客席にて観劇。もえぎ色の全てを投入したかのような濃密な2時間だった。

5人のお姫さま(白雪姫、眠り姫、親指姫、シンデレラ、人魚姫)と白雪姫のまま母=魔女との闘い。
しかし、私見では、実はそれぞれのお姫さまが、鏡には映らない(映したくない?)自分自身の内面とも闘っていたという物語。乱暴に言ってしまうと「生まれついてのお姫さまなんてものは存在しない」という物語か。
ボーヴォワールの有名な言葉「人は、女に生まれない。女になるのだ」を逆転させ、なぞらえるなら「お姫さまは、お姫さまに生まれない。お姫さまになるのだ」とも言えるだろうか。実際この物語のシンデレラは男だし。
深浦佑太氏はとても好きな役者だけれど、脚本もいいんだなぁ。この脚本の確かな骨格があって、夢の舞台が成り立っていたと私は感じた。

その役者陣。コロスの小さな女の子たちもふくめて、みんな実に生き生きと楽しそうに演じていた。魔女役の青木玖璃子さんにいたっては、今後、悪役で売ってはどうか?と思うほど魅力的な悪役だったな。出番は多くなかったが、メイドのディリー役、Maichiyさんも派手さはないのに存在感があって味のある名わき役だった。私の見た回は、魔女の側近役が宮永麻衣さんで彼女もよかったが、ダブルキャストの岩杉夏さんの殺陣も見たかったなぁ。残念。

ミュージカルの舞台は夢を見せてくれなければ…と思うのだが、この舞台を支えた裏方の活躍について。
物語の重要な鍵となる「鏡」を真ん中に配置した左右対称のセットがちゃんと脚本の意図を伝えていて、高村由紀子さんの舞台デザインの「つかみ」はさすがだと感じた。魔女の魔力を表す古跡哲平氏の映像処理も、やりすぎることなく、わざとらしくなくて実に効果的だったと思う。本間崇寛氏の殺陣の指導も行き届いていると感じた。皆さん、どれだけ練習したものか…。

惜しむらくは歌の場面。ソロの歌は問題なかったけれど、残念ながら合唱になると歌詞が聞き取れなかった。子ども達もたくさん客席にいたし、あそこは歌詞を映せばよかったんじゃないかなぁ。
あと舞台奥の照明。あの、ずっと客席に向けてある灯りが目潰しをくらっているようで、個人的にはしんどかった。私は上の方の席だったからまだよかった気がするけれど、舞台と同じ高さの席だと役者がシルエットになって、せっかく熱演の顔の表情が見えづらくなかったろうか? 気にしすぎかなぁ。 場面の華やかさを、照明でアピールするのもいいけれど、役者を魅せるにはほかの手法もあったのではないかと。
衣装も白雪姫の胸元がちょっと気になった。塚本奈緒美さんの華奢な体型には別のラインの方がよかった気がする。いや、これは好みの問題なのかなぁ。

そして、二部構成のダンスについて。「これももえぎ色です!」との主張は受け止めたけれど、せっかくのお芝居の余韻とあのダンスのテイストは別のものだと感じたから、私は別の日に見た方がよかったなぁ。お腹一杯のところに、さらなるお皿がさし出されて、最終的には食べたものの味がお腹一杯になった…という感想一色になったのではもったいないから。思い切ってダンスレビューをなくしても、充分にもえぎ色の魅力は伝わったと私は思うんだが、いかがだろうか?(端的に言うとトータルの上演時間が長過ぎた…)

ともあれ、ミュージカルユニットもえぎ色の情熱は、全部見せてもらった。アッパレ。


※今回の脚本の下敷きとなっている、お姫さまの昔ばなし。白雪姫、親指姫、人魚姫(アンデルセン童話)、眠り姫(グリム童話)、シンデレラ(グリム童話、ペロー童話)をはじめ、絵本から大人向けの研究書にいたるまで、図書館には各種そろっています。今回の舞台で興味を持たれた方、よければご一読を。
また、王子さまを必要としない現代のお姫さまの童話も増えています。私は未見ですが、アニメ映画にもなっているダイアナ・コールスの「アリーテ姫の冒険」なんて、ぜひもえぎ色で舞台化してほしいなぁ。切望。

そして、8月6日をもって終了した札幌市中央図書館での演劇シーズンコラボ企画展示「札幌演劇シーズンを知っていますか? 」展の開催期間中、上演台本の貸出は34件ありました。ご寄贈いただいた劇団並びに関係者の皆さま、ご協力、どうもありがとうございました。

本間 恵
図書情報専門員。札幌市中央図書館調査相談係にて郷土資料を担当。遠い高校時代は演劇部。
プライベートでは、映画『海炭市叙景』製作実行委員会・同北海道応援団や原作の復刊、人気公開句会ライブ『東京マッハ』の番外編『札幌マッハ』のプロデュースなどに携わる。2012年から3年間、TGR審査員。)
ドラマラヴァ― しのぴーさん

 正直に告白すると、僕は舞台のカテゴリーで一番ミュージカルというのが苦手だ。劇団四季の「ライオンキング」や「オペラ座の怪人」は確かにとても素晴らしい。オペラは好きなのだけれど、ミュージカルは劇的なフィット感がなく、僕にはご縁がないものと思っていた。しかし、札幌演劇シーズン初登場の、ミュージカルユニットもえぎ色「Princess Fighter」、あっぱれなミュージカルの王道作!ノリとしてはちょっと恥ずかしかったけれど、とても面白かった。
 なんといっても深浦佑太(ディリバレー・ダイバーズ)の本が秀逸だ。継母である魔女(青木玖璃子)に物心ついた頃から幽閉され、唯一の楽しみだった城の書物庫で本の虫となっていた夢想家の白雪姫(塚本奈緒美)がある日、唐突に義母より外出を許されて城門を出る。そこで出会うのが4人の姫たち。ちょっと精神的に病んでるらしいアンデルセンのおやゆび姫(長麻美)、グリム童話の眠り姫(国門綾花)は、やたら鞭を振り回して「飛び出せ!青春」みたいなクサい台詞を吐きまくる。アンデルセン童話では、あまりに悲しく残酷な結末を迎えた人魚姫(演出・振付・作曲の光燿萌希。原作では恋した王子と同じ足を望んで引き換えに舌を切られた)はトラウマがあって歌えない。そして、世界で一番有名なお姫様、シンデレラ(佐藤亮太、別キャストは恒本寛之)はなんと男、つまりゲイなのだ。このシンデレラの設定は、とても劇のスパイスとしてナイスアイデアだったし、のちのち実に効いてくるのだ。考えれば古代より王族のような高貴な方々には同性愛者も多く、歴史的な解釈としてもあり得るのかもしれない。深浦本は、劇冒頭、「価値観って人それぞれなので、ちょっと、一概には」と鏡に言わせているように、勧善懲悪の物語にまったくしていないところが素晴らしい。そりゃ、プリンセスだって隠し事や悩みはあるし、童話のように純粋な存在でもないだろう。そんな、人間味あふれる人物造形も巧みだ。最後まで、ツイストの効いたジェットコースター的展開は、観客を飽きさせなかったし、子どもから大人まで楽しめる一級のエンターテインメントになっていた。
 ミュージカルの基本、歌唱が、かなり仕上がっているし(歌唱指導は柳生たまみ)、何より殺陣(殺陣指導の本間崇寛ほか4人も補佐がついている)の上手さには手に汗握った。魔女役の青木玖璃子(yhs)は存在感たっぷり。劇の美味しいところを持っていく(白雪姫もそうだけれど)人魚姫を演じた光燿萌希のドストライクな振付や作曲も楽しめる。鏡を演じた森高麻由、魔女の側近コノエ役の宮永麻衣(別キャストは岩杉夏)も印象的だ。子どもたちも魅力的に演出されている。そして、冒頭にも書いたけれど、シンデレラが男という可笑しさが、劇をお姫様戦隊というチープさから脱出させることに成功している。伏線がなくいきなり鏡から明かされる白雪姫の奸計(あれは、どうかんがえても無邪気な行為とは思えない)には驚いたが、そのまま劇はクライマックスへ。どうなる乙女たち!とにかく、語り口が奇をてらわずストレートで、もえぎ色のミュージカルへの情熱が感じられた。
 強いて言えば、少し劇の尺が長い。暗転が意外と少ないのはいいことだけれど、人物が多いので場転で人物の舞台袖への出ハケが頻繁に起こる。物語の力でつながってはいるけれど、少しミュージカル鑑賞下手な僕だからだろうか、物語への没頭を遮られる感じがあった。もう少し整理してみてはどうだろうか。一方で、魔女といい、鏡といい、ダークサイドにいる人物の舞台美術上の縦の動きには、少しゾクゾクした。ちょっとした演出で、舞台はいくらでも素敵になる。そんな、まだまだ磨けるという可能性も感じた舞台だった。

ドラマラヴァ― しのぴー
四宮康雅、HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞ではドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。
札幌100マイル編集長 オサナイミカさん

札幌演劇シーズン2017夏の5作品の中で、2作品は未就学児が無料で入場(要事前予約)できるのですが、そのうちの1作品が、“Princess fighter”です。

演出・振付・作曲を担当し、劇団の代表でもある光耀萌希さんは、2児の母。
母になっての作品、そして札幌演劇シーズン初参戦ということで、パンフレット等からも想いが強く伝わってきました。

ミュージカル劇ということで、すでに観た札幌演劇シーズンの2作品とはまったく違う世界。とにかく元気で、楽しい空気が会場全体を包み込んでいて、お客様もその雰囲気を楽しみにしているという感じでした。

脚本は、ディリバレー・ダイバーズの深浦氏。
他の劇団の方に依頼するのも、もえぎ色としては初めてのことだそうですが、何というか、もえぎ色の雰囲気とある意味、相反するリアル感が、随所に現れるストーリーなのでは・・・と思いました。

表題の“Princess=お姫様”は、女の子なら誰でも一度は憧れ、出来れば自分もお姫様になりたい!という時期があり、でもいつの間にか、いつまでもお姫様ではいられないという現実を知って大人になっていく・・・そんな経験が女子なら分かると思います。

その辺りの、ちょっとワガママでイラッとしちゃうような(だけど小さい頃は、とりあえず許されている)女の子をストレートに表現し、成長過程で自分と“fighter=戦う”ことで、一段と素敵な女性になっていく・・・というメッセージが、分かりやすく、そして従来のもえぎ色のカラーで、楽しく表現されているのではと思いました。

自分の子どもは男の子なのですが、今まさに自分との葛藤で、色々と難しいお年頃(小学校低学年)の姪っ子に観てもらいたい作品だと思ったのです。

今回は13時からの公演が多く設定されていますので、お子様のいらっしゃる方はぜひ一緒に楽しんで、その感想をじっくり語ってもらえたらと思うのです。

もちろんお子様がいらっしゃらなくても、例えばずっと理想ばかり追いかけて、ちょっと人生に迷っている(そこまで大げさかな?)オトナ女子にも観てもらいたい作品です!

オサナイミカ
WEB情報サイト・札幌100マイル編集長。編集長ブログ“オサナイミカのつぶやき”で、主に札幌のリアルな食の情報を発信中。 札幌生まれ・札幌育ちで、20代のころはTEAM NACSの舞台によく足を運んでいた。
作家/シナリオライター 島崎町さん

エネルギーの塊みたいな舞台だ。

ミュージカルユニットもえぎ色『Princess Fighter』は、やりたことをやりたいだけ、あれもこれもと詰めこんで、すべてをしっかりやりきった。

演技あり歌ありダンスあり殺陣ありエンドクレジットありいま観たばかりの舞台のいい感じの静止画ありでさらにそのあとにこれが本編というテンションでレビューショーというダンス公演までやりきった怒濤の2時間でどうだ参ったかと言わんばかりに魅せたそれらすべてを称してこれを色に例えるならば人はそれを「もえぎ色」と呼ぶんだろう。

過剰さはときに下品になるけど、本作にはそんな感じはまったくない。むしろ過剰さの向こうにゆるぎない自信やプライドまで見えて、すがすがしかった。圧倒的な個性と表現力と完遂力を持った演出兼振付兼作曲兼もえぎ色代表の光燿萌希の力だろう。

スタッフワークもよかった。照明(相馬寛之)のゴージャス感は爽快だったし、舞台美術(高村由紀子)は複数の昔話を取りこんだ物語を1つの世界にまとめる効果を発揮し、存在感があった。

ちなみに高村由紀子は、今期演劇シーズンでは、yhs『忘れたいのに思い出せない』で現実と幻夢の世界をシームレスに表現した美しい舞台を作り、パインソー『extreme+logic(S)』ではヒーローもの世界のシンプルさとカッコ良さを再現し、もえぎ色の次のイレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』でも舞台美術でクレジットされている。

僕は演劇界にうとくて、きっと業界的にはなにをいまさらという感じなんだろうが、いま札幌の演劇がおっ、面白いね、って思われてるとしたらその一因はもしかしてこの人にあるんじゃないだろうか?(調べてみたら演劇シーズンではイレブンナイン『12人の怒れる男』や弦巻楽団『君は素敵』もそうだった。才能はとっくに発揮されていた。自分の不明を恥じるばかり……)

役者でいうと、塚本奈緒美のかわいいお姫様感や、長麻美(エンプロ)の病んだお姫様像から生まれる笑いもよかった(あのキャラだけのスピンオフを観てみたい)。さらにこの舞台で性格俳優ぶりをいかんなく発揮した青木玖璃子(yhs)の怪演。『オズの魔法使い』や『マレフィセント』など古今東西の魔女役に匹敵する堂々たる悪役っぷりで、僕は、かつて戦隊ものの悪女役として活躍し国内外にファンのいる曽我町子を思い出した。今後の活躍が楽しみだ。

それにしても、こうやってあらためて観るとミュージカルはつくづく言葉なのだと思う。歌詞に思いを乗せて歌いあげることによって、より感情的に、よりゴージャスに場面が作られていく。だからこそ、歌の歌詞を聴きとれるかどうかは重要なはずだ。本作では聴きとりにくい箇所が多々あったので、演劇シーズンというロングラン公演の中で改善されていくことを期待する。さらに、歌やダンスなどもまだまだこれから、上を目ざしていくのだろう。上演時間をふくめ(やっぱり長い、20分は削ってほしい)、今後この作品がもえぎ色のレパートリーとしてまた再演される際の期待として。

島崎町
1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。今年6月、長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。主人公の少年と一緒に本を回すことで、現実の世界と暗闇の世界を行ったり来たりする斬新な読書体験が話題に。
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