テーブルトーク「いつでも演劇が観られる札幌を目指して」

ゲスト

 2016年2月7日、「札幌演劇シーズン2016-冬」札幌座公演『亀、もしくは…。』(以下、『亀』)の上演後におこなわれたテーブルトークの模様をお届けします。ゲストに札幌市文化部長の川上佳津仁さん、演劇創造都市札幌プロジェクト副代表の秋山孝二さん、そして『亀』に出演した札幌座ディレクター、劇団千年王國代表の橋口幸絵さんを迎えて、現在の札幌における演劇状況とこれからの可能性について語っていただきました。

オーディエンスの裾野が広がり始めた札幌演劇シーズン

木村: 札幌座『亀』終演後のこの場をお借りして、札幌を演劇によって創造都市にしていこうという提言活動をおこなっている「演劇創造都市札幌プロジェクト」(以下、「プロジェクト」)のテーブルトークを始めさせていただきます。今日は「いつでも演劇が観られる札幌を目指して〜創造環境の整備と観光との連携」というテーマでお話を進めていきたいと思います。
難しいテーマだなと思われる方もいらっしゃるでしょうが、まずは橋口さんにお話を聞きながら本題に入っていきたいと思います。
『亀』は1995年から20年間出演者を変えながら再演を続けている北海道演劇財団のレパートリー作品です。これまでウエストサナトリウムの4人の亀たちだけで公演をしてきましたが、今回初めて他の病棟から女性患者(橋口)が参加しました。亀として出演してみていかがでしたか?

橋口: すごく楽しかったです。まず稽古場がすごく楽しくて。このメンバーで50回ちかく公演を重ねているんですけれども、面白いことがどんどん稽古でも出てくるんです。毎回見ていて面白くて。この作品は狂気なのか正気なのかという線引きがどんどん曖昧になっていく話なんですけど、演じている本人も演技であったり、自分自身であったり、そこを意識しながら面白く飛び越えていけたりするので、とても面白かったです。
ゲストのお二人は以前にも『亀』をご覧になりましたか?以前と比べてどうでしたか?

秋山: もっとあっさり登場するかと思ったら、迫力がすごかったですね。

橋口: 歌いながら出てくるんですものね。宝塚ですか?と思いながら(笑)。
あの曲も斎藤歩さんが作曲されたんですけれど、「♪救いたモウ〜、導きたモウ〜」って、実はくだらない伏線がいっぱいちりばめられてるんです(笑)。

木村: 出演者は札幌座のディレクター、演出家ですよね。演出家が5人集まって作品を創ってしまったということですが、演出家同士でお互いにやり合うっていうのは、俳優としてどうなんでしょう?

橋口: 私たちはディレクターになって4年目なんですけども、最初に『ペール・ギュント』(2010年)っていうお芝居の時に、弦巻君以外の3人とやっているんですよね。その時にはものすごくケンカしてて、「それは演劇的にオカシイ!」って。でも今はもう、お互いまったく違う方法論で演劇をやっていて、それぞれの良さがあるということを認め合えてるので「あっ、それは演劇的に成立するよね」とか「あっ、そういう演技でいくのね」みたいな。4人のカラーはまったく違うんですが、ひとりひとりが活かされるような形で斎藤さんが脚本を書いてくださったので、「やっぱり弦巻楽団は軽快だねぇ」とか、そういう感じで認め合っています。

木村: 川上さんはこの作品を初めてご覧になったんでしょうか?

川上: はい。初めてです。私はパンフレットに載ってるぐらいの予備知識しかなかったです。4人が食事する風景の写真だけ見て、あれはどういう場面で出てくるのかなって待っていたんですが、最後の場面で出てきて笑わせてくれました。弦巻さんを本当に真面目な学生だと思ってずっと観ていたので、最後になって「あっ、そうなんだ」って。上手く騙されてしまいました。

木村: おそらく観客の皆さんもそうですよね。今回、初の試みで舞台セットに字幕が出ていたので皆さん驚いたんじゃないでしょうか。今日は中国語でした。
『亀』は1ヶ月間に5作品が上演される「札幌演劇シーズン」(以下、「演劇シーズン」)の一作品として公演されています。
「演劇シーズン」は2012年からおこなわれていて、札幌演劇シーズン実行委員会、演劇創造都市札幌プロジェクト、NPO法人コンカリーニョ、公益財団法人北海道演劇財団、それから川上さんがいらっしゃる札幌市、札幌市教育文化会館が共同で主催している事業です。
川上さんに伺いたいのですが、日本でもなかなか類のないこの事業に実行委員として関わっていらっしゃいますが、「演劇シーズン」が目指しているものは何でしょうか? 

川上: 「演劇シーズン」は5年目を迎えました。皆さん、ご存知かもしれませんが、札幌は劇団の数がとても多いそうで、聞くところによると70〜80団体があり、これは国内でも珍しいそうです。私ども札幌市では、札幌にある演劇をもっと多くの人に知ってもらいたい、ファンになってもらいたいという思いがありました。ちょうどその頃、「プロジェクト」が独力で最初の「演劇シーズン」をスタートさせ、そこに我々札幌市が協力を申し出て、今一緒にやっているわけです。おかげさまで来場者数も回数を重ねる毎に増えてきています。
「演劇シーズン」関係者の皆さん、劇団の皆さん、舞台裏の皆さんの努力で、このように観客が増えているのだと思いますが、これを更に飛躍させたいということで今回から色々仕掛けをしています。先ほど木村さんからもお話がありましたけれども、字幕を作ったりとか、「NPO法人札幌えんかん」が視覚障害の方に聴力ガイドをしたり。これらの仕掛けをきっかけにもっともっと広げていきたいなと思っています。

木村: データが若干古いんですが、2012年から3年間で2万3千名を集客したと伺っています。夏と冬の年2回、「演劇シーズン」が開催されていますが、最近はワンシーズンにどのくらいの観客が来てくれているのでしょうか?

川上: 昨年の夏のシーズンでは5千人くらい、冬と合わせて年1万人に届くかどうかというところです。当初はそんなに観客数が増えるかなと思っていましたが、1万人、もしくはもっと増えるんじゃないかというところまできており、非常に嬉しくまた、驚いています。

木村: 聞いたところによると、観客の皆さんにアンケートをとったら、10%くらいが演劇を観たことがない方だそうですね。毎回初めて演劇を観る人が10%ずつ増えていくっていうのは、これから大きな数になっていくと思います。先日タクシーに乗ったら「演劇シーズン」のチラシが車内あって、市民の方にも広がっていると感じました。
秋山さん、このような演劇の環境を「札幌スタイル」で整えていこうというのが「プロジェクト」だと思うのですが、その辺りをお話いただけますでしょうか。

秋山: 「プロジェクト」にとって「演劇シーズン」というのは、演劇の環境を支えるひとつの装置というか仕組みだったんです。それが今とても活気を帯びてきているというのはとても嬉しいことです。実はこれ以前に、例えば札幌劇場連絡会主催の「TGR札幌劇場祭」(以下、「TGR」)など、ひとつずつ踏み台を上ってきているんです。
2011年、東日本大震災が起きた時期、北海道演劇財団が初めて1ヶ月のロングラン公演(TPSレパトリーシアター)をやっています。観る側にとっては珍しくないかもしれませんが、やる側にとっては1ヶ月ずっと仕事を休んで公演するのは大変なことだったんです。で、震災があって、こういうことをやっていてもいいんだろうかとなった時に、逆にこういう時だからこそやる意味があるんじゃないかという意見があって、その時観客も同じ考えの人が多かった。非常に気持ちが沈んでいる時に、劇場に足を運んで元気をもらったというような話がありました。それが演劇の力なのかなと。
毎年11月に開催される「TGR」は登竜門という感じで、若手が新作をどんどん出しはじめ、ここで大賞をとった作品が「シーズン」参加への権利を得ることになり、ひとつひとつステップを踏みながら、そしてそのひとつひとつが連動しながら、それぞれやる側に機会を増やしてきたという流れがあります。
私も演劇については何も知らなくて、ただ観るだけでずっときているんですけれど、最初はマニアックに感じられ、とにかくやる側だけで楽しんで盛り上がって、観客の孤独を感じながら帰ることも結構あったんですが、だんだん回を重ねると、やる側も観客の声を聞きはじめ、いきなり舞台ということじゃなく、観客が最初に演劇と出会うチラシの作り方の工夫など、サービス的なことも随分進化してきたように思います。

「街」に浸透してきた札幌の演劇シーン

木村: 「演劇シーズン」の大きな特徴として、参加作品は一度以前に公演されている再演作というのがあります。観客の皆さんはご存じないと思うので、どういうかたちで作品が選ばれるのか、選定に関して川上さんの方から簡単にご説明いただけますか。

川上: 演劇っていうと、最初に観る時はハードル高いですよね。特に初めて演劇を観る方にとってはなおさらだと思います。映画等であれば予告編を見たりして、面白そうだなと思ってちょっと行ってみようかなとなると思いますが、演劇はなかなか予告編のようなものも見る機会もないですし、直接行ってみてから極端な話、ハズレだったり、アタリだったりということがありますよね。「演劇シーズン」については、過去に何度も上演されてある程度皆さんにファンになってもらっている作品を選びましょうということでやっています。そういった上でこの『亀』もそうですよね。『亀』は「演劇シーズン」でも2回目のリバイバルになります。(今回から「演劇シーズン」ではこれまで公演された作品を「演劇シーズン」で再演するレパートリーシステムを導入。『亀』はその最初の作品)そういう定着した作品をまず皆さんに観てもらって、そこを入り口にしてもっと違う作品も観てみようかなと思う足掛かりにしてもらえればなと思っています。

木村: 橋口さんは劇団千年王國を主宰しながら札幌座のディレクターでもありますが、劇団千年王國で「演劇シーズン」に何度か参加されてますよね。

橋口: 3回ですね。先程、秋山さんもおっしゃってましたが、毎年11月に「TGR」があり、大賞作品が「演劇シーズン」で公演できるのですが、大賞をいただいた2作品ともう1作品を上演させていただきました。

木村: 札幌の劇団は普段なかなか長い期間の公演ができなかったり、公演回数も少ないと思うんですが、「演劇シーズン」のような長期公演、複数回公演は、創り手側にとって何かプラスになっていますか?

橋口: これまで参加してきてびっくりしたのが、街中で「あれ?演劇シーズンってポスターに出てた人ですよね?」と声をかけられることがあったんです。私は演劇ってすごく暗くてジメジメしたところでうごめいているような印象だったので、「エッ!わたし、陽の目をみていいの!?」っていう驚きが最近あります(笑)。バスに乗ってると女子大生が「演劇シーズン何観に行く?」「『しんじゃうおへや』(yhs)観に行こう」って話しているのが聞こえてきたり、ツタヤに「演劇シーズン」応援コーナーがあるんですが、そこに戯曲が原作の『十二人の怒れる男』のDVDコーナーがあったり。「街に演劇が浸透している〜!」と思ってビックリしています。
やる方としても公演をそれだけ長いことやらせていただくってことは、作品の強度も問われてくるし、何回もやることによって見つめ直すことも多い。あとは「公共性」って何だろうってことはすごく考えますね。自分の劇団でただ公演して終わっていた時は、自分が言いたいことだけを考えてやってましたが、今はそれをいかに多くの人に、その時代に、どういうメッセージとして届けられるんだろうと思うようになりました。作品っていうのはプレゼントだから受けとってくれる人のことを考えなさいってブレヒトが言ったんですが、今この作品はどう札幌に役立つんだろう?って考えるようになりました。

木村: 「演劇シーズン」に参加してお客さんの数は増えましたか?

橋口: もうガンガン増えてます(笑)。昨日は、『亀』に出演しているすがの君のお芝居(札幌ハムプロジェクト『カラクリヌード』)が千秋楽で、yhs『しんじゃうおへや』が初日で、そのうえ『亀』も公演中で、3作品が公演されていましたが、どれもソールドアウトしたんです。札幌の演劇ってなかなかチケットが売り切れることがないんですが、3作品ともソールドアウトという状況。いつもの自分たちの公演よりもお客さんが入ります。
「演劇シーズン」だから観るっていうお客さんも多いですよ。「演劇シーズン」に対する信頼感があって、そこから演劇を体験して、じゃあ他のものも観てみようって「シーズンハシゴ」をしてくださる方がいらっしゃるので、ありがたいことに観客がすごく増えました。

道外、さらには外国客を呼び込めるグローバルな「演劇シーズン」を目指して

木村: 先程、すがのさんという名前があがりましたが、昨日まで『カラクリヌード』という作品で参加してまして、医学生を演じていた弦巻さんは『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』という作品で「2016‐冬」のスタートを飾りました。「演劇シーズン」によって演劇が街の中に広まってきたっていう環境が少しずつできてきたのかなと思うんですけど、今後のビジョン、5年目以降の「演劇シーズン」がどこに向かっていくのか、川上さんはどのように思っていらっしゃいますか?

川上: おかげさまで市民の方に足を運んでいただいて毎回観客数が増えてきていることは実感しているところではあるんですが、それに甘えることなく更に多くの人に足を運んでもらう努力は必要だなと思っています。
ひとつは、札幌はちょうど今「雪まつり」開催中で国内外から多くの方がお越しになっていますけれども、観光客などの外からの方にも「札幌って演劇が面白い街なんだ」と思ってもらえるよう、「演劇シーズン」を盛り上げることによって、例えば『亀』では4ヶ国語字幕も実験的にやってますけれども、外国人も含め多くの方に観てもらえるよう目指しています。
それと私が思うには、もっと若い人にも来てもらいたいなと思っています。今日も結構お若い方がいらっしゃっていますけれども、若いうちから演劇の楽しさや素晴らしさを感じ取っていただければと。そうすれば大人になって親になっても、演劇を演じる側、あるいは観る側として定着していくのではないかと思ってます。そういった意味では、子どもを対象にした仕掛けもこれから何か考えていかなければと思っています。

木村: 「演劇シーズン」自体が様々なコンセプトを持って多様化していく感じがしますね。秋山さんはここにいらっしゃる前に「雪まつり大通5丁目環境広場」で『さっぽろ冬物語』をご覧になって来られたそうですが、会場に外国の方は多くいらっしゃいましたか?

秋山: いらっしゃいましたね。字幕はWi-Fiを使用して携帯電話で見られるようになっていましたが、スマートフォンで写真を撮っている人がいるのをみると、舞台上と手元のスマートフォンの両方を見るのは難しいのかなと思いました。それよりも言葉がわからなくても伝わるもの、ということの方が印象的でしたね。
『亀』の話ですが、11年前のハンガリー公演で同行ツアーに参加したんですが、原作はカリンティでしたよね?ブダペスト出身の方ということもあるんでしょうが、ハドヴァ先生が出てきて一言二言しゃべったとたんに場内がどっと笑うという感じでしたね。橋口さんも体験してると思いますが、韓国も観客の反応が違うらしいですね。日本はすごく保守的なんですよ。拍手のタイミングも遅いし、止めるのも早い。笑うのもどっちかというと控えめという感じ。そういうことを役者も感じながら海外公演から帰ってくると言いますね。だから海外から招いた方と公演後に懇談の場をもつと、日本の観客に対する感想を聞いたり、そういう楽しみ方もあると思うんです。ですから、劇場に行って芝居を見てお終いというよりも、その後の交流の場で役者の目線から自国と日本の反応はどう違うのかとか、色々な事を間近で交流したりする場は、相対のレベルを上げるような気がしますね。昨日も寒いところでよくやっているなと。『さっぽろ冬物語』を演出した斎藤さんと会ったのでちょっと聞いたら、逆に役者は結構汗が出て暑いんだと言ってたんで、観てる方がよっぽど寒いんだなと同情するのをやめたんですけども(笑)。そんな感じで若い人たちが一生懸命やっている姿を見るとそれを応援したいな、そんな気持ちが「プロジェクト」に参加しているみんなの気持ちじゃないかと思うんです。

木村: 秋山さんからお話がありましたが、『さっぽろ冬物語』も4ヶ国語字幕を携帯電話で見られるように配信をしています。そういう試みをやっていることをお話しいただいたんですが、写真を撮る方はたくさんいたようですが、字幕を見ていた方は少なかったようです。が、私たちも色々な試みをしています。
『亀』も4ヶ国語対応のチラシを作りしました。英語、韓国語、中国語、台湾語を北海道大学の留学生の皆さんにご協力いただいて作り、配ったりしているんですが、外国の方がまだほとんど来ていないんですよね。演劇を観光産業にしていくという取り組みを、どういう風にもっと進められるかなと、ここ数日思っているんですけれども。

秋山: 多分それは呼び込む仕組みがまだちょっと貧弱なんだと思うんですよね。
ですけど、観に来た日本の方には4ヶ国語対応しているんだなという姿勢は伝わるのかなと。決して慰めているのではなくて、そういうところから始まっていくんだろうなと思います。これまでの20〜30年の札幌における演劇の裾野の広がり方を見てみると、その時は実はひとりも来なかったとかね、そういうところから始まると思うんですよ。だから悲観することはありません。

木村: 観光にアプローチできるような文化をどう作っていくのかについて、川上さんはどう思いますか?

川上: 演劇に限らず、札幌の場合は夏になると「シティジャズ」や「PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)」があったり、秋には「アートステージ」があったりと、札幌市内で1年を通してお祭りや文化イベントをやっていますが、どちらかというとこれまでは地元札幌市民に目線がいっていたんじゃないかと思っています。そういった意味では「札幌で色んな文化的な面白いことをやっています」ということを海外に発信していかなければならないと思うのですが、その発信の方法をこれから本当に試行錯誤していかなければならないと思っています。
演劇でいうと『亀』の4カ国語対応字幕が試行錯誤のひとつだと思っています。外国の方に演劇を含めて「札幌で何か面白いことをやっているな」ということが届かないと来ていただけないので、どういう人たちにどうやって届けていくのか、そこが一番のポイントになっていくのではないかと私は思っています。

木村: そうですね。発信のポイントとともに、やる側もそういった準備が必要になってくるんじゃないかと思うんですが、橋口さんは海外公演や字幕公演の経験はありますか?

橋口: そうですね、韓国の光州で「平和演劇祭」が開催されていて、北海道文化財団と毎年演劇による相互交流をやっています。それに参加させていただきました。札幌座のディレクターたちの劇団も韓国公演にずいぶん行っています。9月に「フェスティバル・トーキョー」を観てきましたが、参加作品の半数は韓国や海外のアーティストとのコラボレーション作品で、韓国の役者が出演しているようなことはもう当たり前なんだ、むしろ国内で日本語で日本の観客とだけ向き合っているような時代じゃないと、すごく感じました。
演劇シーズンが始まるぞ!となった5年前に、ロングランできる作品ってどんな作品なんだろうと思って、ニューヨークに視察に行ったんですけど、まさに世界中から演劇を観に来ている。夜は8時からは劇場に行く、チケットセンターに並んで当日半額になっている芝居の一覧表から観る芝居を選ぶということを1ヶ月ぐらい続けていました。メトロポリタン・オペラ・ハウスの座席には必ず字幕が埋め込まれていたり。こういうことかと思ったことが、今ここに来て札幌でもそれをやろうとしている、一歩を踏み出していることに、私はものすごく衝撃を受けているんです。「あっ、国際化している!」と。そしてこれは突飛なことではなくて、時代の流れに合っているし、「演劇シーズン」も「演劇国際シーズン」みたいにして海外作品をラインナップのひとつにしてもいいんじゃないかと。「TGR」で大賞は受賞したけれど「演劇シーズン」では公演されなかった韓国の作品(『アイランド〜監獄島』)やロシアの作品(『素晴らしい未来』)なんかが、「演劇シーズン」の演目になって「国際演劇シーズン」になったら、「札幌は「雪まつり」時期には国際演劇祭をやるんだぜ!」みたいなことがね。海外の作品がラインナップされたら絶対面白いと思いますよね。

木村: そうですね。そういう形で国際化してくことで、また海外のお客様が来て下さったり、客席でも交流があったりするといいなと思いますね。それがある意味、札幌で演劇をやっている人たちの力になったり、札幌という街の力になったり。「プロジェクト」は演劇における「札幌スタイル」を作っていこうとしていますが、こういうグロ-バル化を「プロジェクト」でも視野に入れているんでしょうか?

秋山: そうですね。『亀』がハンガリーや韓国で公演して帰ってきた後に観た『亀』が前と全然違うと感じました。先ほどもお話しましたが、日本の観客は非常に保守的で穏やかなのに対して、外国のお客さんはものすごく反応に強弱があって敏感だから、それによって役者も成長というか自信を得て帰って来たなというのが、観る側にもすごく伝わってきてすごく嬉しく思いました。
先程もお話しましたが、交流というのはやっぱり必ずベースになるものが必要だと思うんです。地道な交流のなかで、韓国の場合、北海道演劇財団がソウル演劇協会と交流協定を結んでそれに基づいて相互交流事業をおこなったり、サハリンのチェーホフ劇場とも交流協定を結んで往来するなど、バックグラウンドというかベースになる協定という枠組みづくりに、これまで海外との演劇交流を切り開いてきた方々は時間をかけてきた。
支える側の枠組みづくりは、他にもあります。札幌でも2年前からトリエンナーレで国際芸術祭が開催されてますけど、芸術家は創作以外のところでのコラボレーションというのは考えないというか、一緒にやるのが難しいようです。PMFもそうだし、札響もそうだし、色んなイベントにはファンクラブや応援団がありますが、こういう文化や芸術を応援する組織が「アート・ボランティア・ネットワーク(通称Vネット)」というネットワークを作って、これから支える側も芸術家とコラボレーションしていきましょうという機運が、地道な活動を重ねながら高まってきています。こういう支える側、市民の取組があっての盛り上がりなので、それが一番嬉しいというか、これからも期待できるんじゃないかと思っているんですけどね。

木村: 「演劇シーズン」5年目を迎え、「観光」と「子ども」というテーマが出てきましたが、「創り手」と「支える市民」そして「市」の協力のもとに活性化していくことで街がどんどん豊かになっていくのかなと、お話を聞きながら思いました。
ではここで、客席からお芝居の質問でも構いませんので、何かご質問ある方がいらっしゃいましたら受けたいと思います。

観客A(女性): 今回知人に勧められて観に来たんですが、「演劇シーズン」に参加している方々が、普段やっている演劇は何となく敷居が高いイメージがあって、行きにくいんですが、あの、行ってもいいものなのでしょうか?

(会場笑)

橋口: 全然来てください!お気持ちはすごくわかります(笑)。私もクラブとかは誰かと一緒じゃないと行きにくいですよね。まず料金はどこで払うのかとか、ノリ方はどうすればいいのかとか、お酒は飲んだ方がいいのかとか、どうしたらいいのかわからないので。小劇場も、座布団が敷いてあったりするんですよね、椅子がなくて。そこに座るのか、土足なのかとか。とっても気持ちはわかりますし、今は随分そういったところはなくなってきたように思いますが、複雑なルールはありません。行ってお金を払って座れば始まるので、終わったら出て行くっていうぐらいで大丈夫なので、ぜひぜひ冒険してください。たまに観客が参加させられることもありますが。私が経験したのは韓国のダンス公演だったんですけど、上着を脱がされて舞台に上げられるっていうのがありました。それはそれで楽しかったです。劇場の面白さって今まで聞いたことも見たこともないような価値観に出会うことだっておっしゃられた方がいて、私も本当にそうだなと思うんですよね。ぜひチャレンジしてみてください。

観客A: ありがとうございます。

木村: 川上さんもはじめは敷居が高かったですか?

川上: そうですね。演劇を観に行く人って非常にマニアックな人だけだっていうイメージが強かったものですから、その場に入っていくというのは相当な勇気が必要だと感じました(笑)。

橋口: 暗いしね(笑)

川上: そうですね(笑)。でも「演劇シーズン」があることで「誰でも行けるんですよ」って背中を押してもらえるひとつの大きなきっかけにはなっています。

木村: そうですね。では、後ろで手を挙げてくださった方がいましたが。

観客B(男性): 面白い話を色々ありがとうございました。最初の方に同じ質問されてしまったんですけど、ブレヒトの「演劇っていうのはプレゼントだ」という言葉を教えていただきましたが、今日ここに来る時「雪まつり」を見ながら札幌市から市民へのプレゼントなのかなという印象をもちました。ブレヒトおじさんは街づくりとか、そういうことについても言っていたととらえてもいいのでしょうか?

橋口: そうですね。私たちが暮らしている社会を演劇というものを通してどう創っていくのかとことについて考えたと思うんです。私が読んだのは『今日(こんにち)の社会は演劇によって再現できるか』という本ですが、ひとつの演劇はひとつの社会をモデルとしていて、そのなかで自分たちの思い描く社会を創ったり、社会を映す鏡にしたり、こういうことを演劇人はすごく考えてきたと思うんですよね。なので、大きな意味でそれがどう街づくりになっていくかというところまで広げて演劇っていうものがあると私は信じているので、お客様のお考えの通りだと思います。

目指すは3万人が出演する演劇!これからの演劇創造都市札幌

木村: 進行の私が「雪まつり」会場を先程からPRしていますけれど、これは札幌市が札幌の演劇人にプレゼントしてくれた舞台だと思っています。シェイクスピアが公演していた「グローブ座風」に雪像を建ててもらいました。こういうものを雪像で作ってくださいとお願いして、その上で公演しています。札幌市からのこういうプレゼントを札幌の演劇人たちはいただいて、それをまた市民の皆さんたちにお見せすることでお返ししていく、そういう街になってくれればいいなと、会場からの質問を聞きながら思いました。
それでは、これからの演劇の街・札幌に向う夢を最後に一言ずつ語っていただけますでしょうか。

秋山: 「プロジェクト」は「100人の演劇人が活躍する街」を目指していますが、そうなるためには、大げさに言うと「産業」としての演劇なんだと思います。演劇は経済性も大きい。舞台というのは役者が演じるだけじゃなく、色んなプロフェッショナルが集まって、初めて出来上がるわけですよね。そういう「産業」として、さっき橋口さんが言われたように、街のなかで役者とすれ違って会話が出来るみたいな、そんな風になるためには、市民として一体何をやらなければならないのかというと、寄付とか、応援とか、協賛など、お金で協力できる企業もあるだろうし、劇場に足を運ぶということもあるし、色いろあるんだと思います。先程のように敷居が高いっていうのは、事前情報が映画に比べると少ないからだと思うんです。誰かに紹介する時も「行ってみなきゃわからない」というものが多かったものですから、なかなか紹介もできなかった。でも最近は、事前情報がホームページやその他で増えてきたし、10年スパンでみると、この10年、20年で大きく進化してきている感じがするので、これからも楽しみだなと思っています。

川上: 「演劇シーズン」を観はじめたのは一昨年の夏シーズンからなので、まだ4シーズン目なんですが、演劇って色んなジャンルがあって面白いなと感じはじめています。私のような素人が少しでも演劇に近づいて、どんどんはまり込んでいくような、そういった人が一人でも二人でも多くなって、「札幌って本当に演劇が面白い街なんだよね、一回行ってみようかな」そう思ってもらえるような街になればいいなと思っています。そのためには演じる側の方もそうですし、観る側、支える側、本当に総力を挙げて力を合わせて一歩ずつ前に進めていくよう努力をしていかなければならないと思いました。

橋口: こんなに難しい話なのに、たくさんの方に残っていただいて、本当に嬉しいことです。街中で演劇の話をしている人がいて、そういう人に出会うこともビックリするぐらい本当に嬉しいことなので、演劇が好きな方がたくさんでてきてくださればいいなと思います。そして皆さん、演劇に参加されたらいいと思うんです。3万人が出演する演劇とか。私が創ります(笑)。是非皆さん、演劇を観たり、出演したりしながら、札幌の街にしかできない演劇、国際的にもトピックになるような、「札幌、何か面白いことやってるぜ」って、ニューヨークとかからお客さんが来るような街ができればいいなと思います。

木村: ありがとうございます。「札幌演劇シーズン2016-冬」は、これからyhs『しんじゃうおへや』、劇団コヨーテ『愛の顛末』とまだ2作品続きますので、是非こちらにも足を運んでください。
今日は皆様、ありがとうございました。


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