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この作品って、どんな作品?

この作品って、どんな作品?

劇団新劇場「木に花咲く」

「演劇の魅力」があふれんばかりに詰まっているこの作品を、<br />
あまり芝居など観たことがないという方にこそ是非。

 満開の桜の木の下には死骸が埋まっている ― 満開の桜の木の下で一人、酒を汲みながら只一人授かった孫を思い何かつぶやいている老婆。姿勢を正し、ほとんど動かない。古木の桜と一体化した様である。祖父の代からの女系家族で野心のない男を婿に迎えて来た家でやっと授かった男の孫、いじめられっ子の後継を強い男に育てようと全力をそそいでいる。「父や夫、婿のような弱い男にさせてたまるか」。当然老婆は娘夫婦とそりが合わず、夫婦の間にも溝が出来る。
圧巻は孫の嘘を正そうとする老婆である。愛するがゆえに強く叱る姿には鬼気迫るものがあり、そして悲しい。婿夫婦は別居を決意し家を出て行き、最愛の孫を失い孤独に暮らす老婆とその孫はどうなるのだろうか。悲しくも静かな幕切れが美しい ―
 ph  『木に花咲く』は、日本を代表する劇作家の一人である別役実さんが1981年に執筆、発表した作品です。別役作品には、家族、教育、犯罪、戦争といった現代社会の不条理を取り上げたものが多く、本作品も、1979年に日本社会を震撼させたある実際の事件(犯罪)に触発されて作成されたものだそうです。のちに別役さんは、「昭和」という時代について語る中で『木に花咲く』に触れ、「『昭和』という時代を確かめるよりどころとして、我々は、この事件の『祖母』の立場に立たざるを得ない、ということであろう」と語っています(2012年11月10日『図書新聞』より)が、本作品においては、戦後の日本社会に桜の木の根のように深く、密に食い込んだ(無意識的な)社会的病理や不条理さが、“狂ってどうしようもなく咲く”満開のソメイヨシノを後景として、老婆(祖母)の視点から見事に描き出されています。報道によれば、文学座、俳優座、青年座、昴(すばる)など、全国的に名の知られた複数の劇団が、「別役実フェスティバル(仮称)」と題して、2015〜16年にかけて過去の別役作品を全国各地で次々に上演するそうです。これは、『木に花咲く』等に代表される別役作品というものが、時代を超えて観る者すべてに強く迫ってくるような力を有し、多くの演劇人と観客を魅了し続けてきたことの証と言えるでしょう。

 “不条理劇”と言うと、「何だか難しそうだ」と敬遠されるかもしれません。確かに難解なところもあるかもしれません。実際、2009年の初演時に出演した劇団員某は、「結局最後まで台本の意味を深く理解できぬまま演じていた」と役者にあるまじき白状(笑)をし、だからこそ、今回の再演にあたって「必ずリベンジしたい」と意気込んでいます。演出家の山根義昭も、「再演するからには絶対に初演より良い芝居を作らなければならない」と自らを叱咤し、台本を深く読み込み、口角泡飛ばして役者たちに「なんでわかんねえんだよー!」と厳しい注文をつけています。
 ph  しかしながら、この芝居は、演劇というものを見慣れた別役ファンの方々だけでなく、むしろこれまであまり芝居など観たことがないという方にこそ是非ご覧いただきたい作品です。それは、この芝居に「演劇の魅力」があふれんばかりに詰まっているからです。皆さんには、小劇場が有する独特の一体感の下、頭上に広がる満開の桜の艶やかさと狂気の中で、一つ一つのセリフに耳を傾けていただきたい。頭で理解しようとするのではなく、どのセリフ、どの静けさに自分の心が動かされ、何を感じるのか、それを楽しんでいただきたいと思います。ご覧いただければ、きっとテレビドラマやハリウッド映画とは全く異なる演劇の魅力を感じていただけると確信しています。
 ph  敗戦を境に一変した社会、強い家長の父と優しいが弱くなった父親、少子化や教育などに警鐘を鳴らした別役実さんの力作です。我々劇団一同、悩み、苦しんだこの作品をぜひ多くの方々に御覧いただきたいと願っています。団員一同、劇場でお会いできるのを楽しみにしています。  

斉藤 誠治(さいとう・せいじ)

劇団新劇場代表。札幌東高校演劇部に捉われ、2年生と3年生の時のコンクールで全道優勝、助演男優賞を獲得、演劇の泥沼に浸かる。北高校、藤女子高校の同期と「劇団創造」を結成し、4年後「劇団くるみ座」と合同合併して「劇団新劇場」を創立、爾来54年間在籍。2003年から10年間プロデュース公演として井上ひさし作の2人芝居「父と暮らせば」(父・竹造役)を江別、札幌を中心に公演した。演劇歴は60年になる。

柿澤 未知(かきざわ・みち)

1973年生まれ、東京都出身。本業は北海道大学公共政策大学院准教授。劇団新劇場に入団してまだ1年余の「不惑」の新人団員で、経験豊富で技術の確かな演出家と先輩たちに揉まれて日々是修行中。2014年9月の「高き彼物」で初舞台。

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