2015年2月1日、札幌演劇シーズンの特別プログラムとして「Table talk vol3 in sunpiaza theater」が行われました。今回のゲストは、劇団千年王國の代表を務める演出家の橋口幸絵さんと、元・朝日新聞東京本社編集局長で現在作家の外岡秀俊さんのお二人。当日の公演作品「ローザ・ルクセンブルク」を中心に、演劇や創作の表現にまつわる想いや、演劇都市札幌のこれからの可能性など、約1時間のテーブルトークが繰り広げられました。
飯塚 優子(以下:飯塚)まずは橋口さん、まだ舞台の興奮がさめやらない状態ですが、この作品で何を伝えようと思っていたのか、そのきっかけなどを教えてくれますか?
橋口 幸絵(以下:橋口)やはり、3.11──、原発事故が起きたこと。それが直接的なきっかけですね。北海道に避難する方々へのボランティアに参加して、自分よりも若いお母さんたちが、自分たちの子どもを守るために、本当に真剣に考えている現状を知りました。同時に、自分は一体何をしているんだろうと。そのあと自分が妊娠・出産を経験して、どんな世の中に子どもを産み落としたいのか?と、突きつけられたんです。そうして、いかにメッセージとして伝えるべきか?と考えたとき、誰かを参考にしたかった。できれば同じ女性がいい。そうして探しているなかで、ローザ・ルクセンブルクに行き着いたんですね。まずは獄中記を読みました。なんてすごい「光」なんだと思ったんです。革命家でありながら愛情深い。優しい人ですよね。傷ついている人がいたら居ても立ってもいられない。それから、恋ですよね(笑)。夢中でその人を想う気持ちの強さ。それらが示す光に感銘して、脚本を書き始めたというのがきっかけです。
飯塚)なるほど。光を求めるなかで見つけた人物だったんですね。外岡さんは、今日の劇を見てどのような感想をお持ちですか?
外岡 秀俊(以下:外岡)戦後70年の今、戦争体験者から聞くのは「今は戦前を生きているようだ」という言葉。もしかしたら?という不安と危機感を持った時代に生きている。今日の劇を拝見していて、これは、過去の話ではない、「100年後に伝える」というメッセージなんだと思いました。「戦い方を教えて」という問いに、ローザが「いつでも微笑んで、どんなことがあっても」と答える場面がありましたね。そこに私たちへの答え、強いメッセージがあると感じました。
橋口)まさに、その通りなんですよね。資料を調べていくなかで本当に今の時代と似ていると感じました。彼女が暴力革命を否定していること。それが私たちにとって必要なメッセージだと思いました。
飯塚)はい。そして、作品の表現方法、ダンスや生演奏など、見どころ満載な舞台でしたが、これらをとり入れた舞台づくりが多いですよね。
橋口)最初に生演奏を舞台に取り入れたのは『イザナキとイザナミ』という作品でした。そのときは、BGMではなく、俳優とミュージシャンの区別がないものをつくりたかったんです。そのあと「狼王ロボ」という作品で始めてダンサーさんと一緒にやったときに、また衝撃を受けまして。このあふれる才能と一緒にやらないのは損だと思いました。そこで、今回の演劇シーズンが始まるときに、ロングランに耐えうる作品はどういうものかとブロードウェイを見てきたんです。すると、当たり前に生演奏だったんですね。自分たちもやってみて気づいたんですが、まさに、ライブなんです。役者とミュージシャンとのセッションで生まれるという。しかも、言葉じゃない表現がすごく優れていたんですね。そういった要素を入れて今回はロングランに耐えうる作品をつくろうと意識しました。
外岡)私は、ニューヨークで多くの舞台を見ましたが、今日出演していたダンサーの方々は実力が抜きん出ていますよね。あれだけ激しい動きのあとも息が乱れていませんよね(笑)。日本の商業演劇も含めて、これだけ鍛えている集団は、ほかに存在しないんじゃないかと拝見していました。
飯塚)千年王國という劇団には、個性の違う魅力的な女優さんがそろっていますよね。
橋口)もともとは男性が活躍する芝居をつくっていたんですよ。だけどうちは、ブラック劇団なので、いろいろとつらいんでしょうね。練習がハードで精神的にもつらく(笑)。
飯塚)逃走しちゃうわけですね(笑)。
橋口)ええ。でも、振り返ると、私が今まで観て感動したのは、女優がいい作品なんですよね。オンシアター自由劇場の『クスコ・愛の叛乱』とか、夢の遊民社の『桜の森の満開の下』とか。で、気がつけば、うちの劇団には主役を張れる女優が4人もいたんですよね。じゃあ、ローザを誰にしようと迷ったとき、これは誰に決めてもケンカをするぞと思い、じゃあ4人出してしまえと(笑)。主人公がたくさん出てくるというのは、わりとポピュラーな表現なんです。どこにでもいる誰かを表現するために、いろんな役者さんが一人を演じるというやり方があります。今回は、ローザ・ルクセンブルクという固有名詞ではなく、どこの時代にもいる、社会に対して戦う女性を、普遍的な姿で描こうと思いました。
外岡)私は4人で描きわけたことによって、ローザという人間は、年齢別にそれぞれのローザであって、すべて合わせて、ひとりのローザなんだと感じました。
橋口)あぁ、それはうれしいですね。リレーしていくことを大切に考え、それぞれの役割は、女優たちが意識してきたことなので、伝わっているのが本当にうれしいです。
飯塚)橋口さんは、お母さんになって、社会との関わり方に変化があったとおっしゃっていましたね。
橋口)子ども自体が社会とつながる強力なパイプなんですよね。実家にも電話を頻繁にするようになったり、親戚がお祝いをくれたり、子育て給付金をいただいたり、こんなに社会活動していることって、なかなかないと思っています。その前に、9.11がニューヨークで起きたとき、ちょうどお芝居をつくっていて、そのとき私は、学生のような身分で、ぜんぜん社会に興味を持っていなかったんですね。劇場に閉じこもり、自分の妄想を相手に創作をしていたんです。公演が終わって新聞を初めて見ると、なぜ私は社会を見なかったんだろうと思いまして。創作の想像の中にいて、まったく社会とつながっていなかった。それはとても恐ろしいことなんだと思いました。それからは、私はどう社会とつながっているのかと、創作にも意識するようになりましたね。それが子どもが生まれたことによって、より明確になってきたという感覚はあります。
飯塚)さて、『演劇創造都市さっぽろプロジェクト』の提言で始まった『札幌演劇シーズン』は、2012年にスタートして、今回が7回目となります。札幌に住んでいる私たちが、札幌でつくられたお芝居を誰でも楽しんで観られる状態をつくる。そして、お芝居を観たり、つくったりするために、みんなが札幌に集まってきてくれる。そんな街になれたらと願っているのですが、外岡さんからご覧になってどうでしょうか?
外岡)マンハッタンの街は中央区よりちょっと大きく、西区より小さいくらいの規模なんですね。なぜ、あんなに演劇が盛んなのかというと、車でだいたい20分あれば劇場に移動できるんですよね。札幌が優れているのは、行きたいときに気軽に行けるところだと思うんです。
飯塚)なるほど。確かに、劇場まで1時間もかかりませんよね。
外岡)もうひとつは、演劇って北の文化だと思うんですよね。大げさかもしれませんが、冬になって、どこにも行くところがなくて、ほかに娯楽がなくて、演劇を観るという文化が育っていくのではないかと。
橋口)あ〜そうなんですか?(笑)。
外岡)ふふふ、これはあくまでも推測ですが(笑)。でも、そういう意味でも演劇が似合う文化だと思いますよ。
橋口)うん、それは心強い。
飯塚)演劇が育つ条件が整っていますね(笑)。私の家のある西区からここ厚別区のサンピアザ劇場まで、交通機関で30分くらいで着きますからね。仕事が終わってからも劇場に行けますよね。
外岡)そうですね。たとえば、ニューヨークやロンドンの場合、夜の8時から演劇が始まるんですよね。家族で食事をしてから観て、夜の10時には終わるという。だから仕事がある人でも来やすいんですよね。やっぱり、演劇を楽しむには、楽しむだけの暮らしのゆとりも必要ですよね。
飯塚)今の札幌は、まだ劇場に行くのが、ちょっとおっくうかなという状況なのかもしれませんね。せっかくですから、ゆったりした気持ちで観ていただきたいですね。
橋口)飲みながら観てみたいですよね。いいぞー!とか言いながら(笑)。
飯塚)ワイワイとね。そういうのもいいですよね。いろんなお芝居があって、いろんな楽しみ方があっていいと思うんですよね。
外岡)昨年の演劇シーズンも何度か拝見していますが、どこもお客さんでいっぱいですよね。若い人がすごく多くて、それがうれしいし、期待を持てると思ったんです。できれば、その若い人たちの上司や先輩にあたる年齢の方々が足を運んでくれる。男女問わず。そういう状況が普通になるといいですよね。
橋口)開演時刻なんですかね……?
飯塚)今、夜は19時半の開演ですか。
橋口)やっぱり20時の方が来やすいんでしょうか。
飯塚)でも、最近は昼間の方がいいという方も多いですね。
橋口)お客さま、ご要望あればぜひ、アンケートに一筆お願いします(笑)。
飯塚)大人が観て楽しめるお芝居をつくるには、大人の考え方を持った演劇人も必要ですよね。若い人も、大人も、じっくりと演劇をつくり続けられる環境をつくっていけたらと、あれこれ考えてるわけなんですけど。
外岡)あの、ところで皆さん、生活はどういうふうに……?
橋口)あぁ……、大きな問題ですね(笑)。私は演劇の仕事で食べてますが、劇団員は8割くらいがアルバイトをしていますね。
飯塚)ロングラン公演の場合は、仕事を続けている方はけっこう大変ですよね。
橋口)そうなんですよね。でも、なかには、とても理解のある会社もあって「仕事と演劇活動を両立しなさい」と社長が言ってくれる、そういうところもあるそうなんです。あの、企業に所属するオリンピック選手のような感じでしょうか。
飯塚)それは、素晴らしいですね!
橋口)ですから、札幌の企業の皆さま、ぜひ演劇枠という雇用枠を設けていただきたいと(笑)。
飯塚)それはステキ。そういったことを企業にアピールするのも、このプロジェクトの仕事ですね。
橋口)ぜひ、演劇枠を!
外岡)たとえばね、ニューヨークのあるレストランでは、ウエイターやウエイトレスが突然オペラを歌うんですよね。
飯塚)お店で?
外岡)はい。それが売りなんですよ。彼らにとっては職場でもあり表現の場でもあるという。お客さんもそれを楽しみにしていて。歌手の卵や表現者をサポートしているんですね。
飯塚)演劇に関わる場が街の中にいっぱいあるという環境ができるとステキですよね。札幌に行って芝居を観に行こうかと、欧米の演劇のフェスティバルのようになるとステキだなと思います。
外岡)ぜひ、橋口さんには、海外公演をしていただきたいと思うんです。言葉だけに頼らない表現の強さは、本当に海外に適していると思うんです。
橋口)光栄です。すぐに海外に行きます(笑)。
飯塚)外岡さんの今後の作品も楽しみにしています。
橋口)ぜひ戯曲も書いてください。演出しますので。
飯塚)いいですね。外岡さん作・橋口さん演出ですね。
<場内拍手>
橋口)あ!拍手が。ありがとうございます。
飯塚)楽しみですね。そろそろお時間になりました。ローザのように「何があっても微笑んで」。これからもいいお芝居をみんなで観ていきましょう。今日はありがとうございました。
【一同】ありがとうございました。